第11話

残された女性は、混乱した様子で辺りを見回していた。

男性の方も何が起きたのか理解できない様子で、スマホ片手に亮たちのことを探るような目つきで見ている。


「どうする?」亮が小声で志堂寺に尋ねた。

「ごめん、ちょっと応援呼んでくる」


志堂寺がちらっとスマホを亮に見せて離れていく。

そうか、二人の保護を頼みに行ったのか。たしかに、このまま帰すのも心配だよな。


亮は放心状態の女性を横目に、場を繋ごうと男性に話しかけた。


「あの、少しお話を……」

「お前、何なの? さっきからずっと」


男性は明らかに不機嫌だった。三十代前半くらいか。スーツは着ていないが、営業職が似合いそうな体育会系の男性だ。


「いや、すみません、都市安全調査室の者で……」

「警察?」


「あ、いえ、違いますが……」


志堂寺が電話を終えて戻ってきた。


「大丈夫、一般対応チームが来るから」


亮に小声で告げる。そして、彼女は女性の様子を確認してから男性に向き直った。


「すみません、先ほどご一緒だったあちらの女性について、少しお聞きしてもよろしいですか?」


志堂寺の堂に入った姿に、亮は思わず感心した。


「えっ、俺が話してたのはあの人じゃないよ?」


男性の言葉に、亮と志堂寺は思わず「「え?」」と同時に声を漏らす。


「だって、見て見ろよ、顔が全然違うじゃん!」 


男性は立ち尽くす女性を指さした。女性も同じく困惑した顔で男性を見ている。


「でも、あなたも彼女が離れるのを見てましたよね?」


志堂寺が冷静に問いかける。


「ああ、確かにそうなんだが……おかしいな。何がなんだか……」


男性は混乱した様子で眉間にしわを寄せる。


「その女性って、どんな人でしたか?」と亮が尋ねた。

「ええと、たしか……さゆりって言ってたな。とにかく美人でショートカット……あれ? どうなってんだ?」


男性が軽いパニックになっている。女性はロングヘアだ。


「女性には何と言われたんですか?」


志堂寺の質問に、男性は少し恥ずかしそうに答える。


「なんていうか、その……あなたに一目惚れしたって……い、いや、ホントだからな!?」


亮は冷静に問いかける。


「他には?」

「良かったら散歩しませんかって……そしたら、その子が突然走ってきたから」


男性は非は志堂寺にあると言わんばかりに言った。


「……わかりました、ありがとうございます」志堂寺が頷く。

「もういい? 俺も暇じゃないからさ」


男性は少し苛立った様子で辺りを見回した。


「ええ、担当がお送りしますので」


その言葉に呼応するかのように、黒いスーツの男性二人が現れた。

一人が男性を、もう一人が途方に暮れた表情の女性を別々に案内していく。


UPMAの職員が二人を連れていく様子を、亮と志堂寺は黙って見送った。

やがて、二人きりになる。


「確実に……いたよな?」

「ええ」


志堂寺の返事は短かった。

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