第5話

若い男性職員に先導されながら、亮は広い廊下を歩いていた。

壮大なドッキリだと言われても――、いや、そう言ってくれればどれだけ楽になれるだろうか。


セットにしては洗練されすぎた建物だし、通り過ぎる人達は本当に働いているように見える。


未解明事象監理機構、か……。


表向きは『都市安全調査室』と言うらしい。

聞いたことがあるような無いような。


そもそもこんな大掛かりな組織を隠せるものなのか。隠せるのだろう、現に亮はその存在をいまの今まで知らなかったのだから。


そんなことを考えていると、職員が足を止める。


よくあるオフィスの休憩室に見えた。

ソファや椅子が並び、テーブルの上には飲み物やお菓子、弁当やおにぎりが並んでおり、ご丁寧なことに冷蔵庫、電子レンジ、ポットまで完備されていた。


「しばらくの間、こちらでお待ちいただきます」


無表情の職員を呼び止めようとするが、


「あ、でも……」という亮のか細い声を残して扉は閉まった。


諦めてソファに凭れ、天井を見上げる亮。


「あの仕事、請けとけば良かったかなぁ…」


亮は派遣会社からのメールを思い出していた。

自分はもう一生、普通の日常に戻ることはできないのかもしれない。


そんな考えが胸をよぎるが、黒い手袋を見つめ「いまさらか……」と乾いた笑いがこぼれた。


この手袋の下に隠された右手の力が、亮の運命を変えてしまった。


ただの一度も望んだことのない力。

こんな力よりも、可愛い女の子にモテる方が絶対いい。


「はあぁ……」


天井に向けて伸ばした右手を見つめる。


「やっぱ、消さなきゃ良かったかなぁ……」

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