第4話
骨族は死んだ人間の皮を被って成り代わることができる。脳から記憶を吸い出して本人そのものとして振る舞うこともできる。しかも歳を取らないから不思議なものだ。
昔変わり者のどこかの国の女王が老いを恐れて自ら用意した骨族に自らの皮を被せたこともあるという。その女王がどうなったのかは誰も知らない。
そんな昔話を思い出している間にそれは終わった。骨族の男は青蘭の皮を被り目の前に現れた。
「これでいいかよ」
「青蘭がそんなことを問うか?」
「……っ。 お待たせ、ダグ」
「ああ」
聞き慣れた声。それがまた聴けて嬉しい。ただなんとなく心の穴に風が吹き抜けた。
「これは青蘭じゃなくおまえに言う。女帝の元に案内しろ」
「……わかったよ」
俺と青蘭は連れ立って女帝のいる屋敷へと向かった。当たり前のように守衛に止められたが青蘭が顔を見せると守衛は鼻を鳴らして通行を許可してくれた。
屋敷の奥に進む。奥へ行くほど焚きしめられた香の匂いでむせかえるようだ。一番奥と思われる部屋の前に行くと、青蘭は大きなドアをノックした。
「入れ」
艶のある声が命令する。それに準じてドアを開け、中に入る。女帝と相見える。
「これはこれは青蘭」
女帝は美しい相貌を崩さないままにこちらに近づいてきた。
「逃げたら殺すと言っておいたはず。それをのこのこ殺されに戻ってきたのかい?」
「違うんです殿下!」
「青蘭!」
「……。」
俺が声を荒げると初めて存在に気づいたように女帝はこちらを見やる。
「これは客人どの。 お茶でもいかが?」
「結構だ」
「そう」
女帝は興味なさそうに笑んだ。
「なぜ青蘭を殺した」
女帝はそれを聞くと驚いた顔をして青蘭を見やった。そして数秒の思案顔。と思えば今度は笑い出した。
「あっはっは。 そう言うことか。 いやあおぞましいことをする」
女帝はそばにあった机の上のお茶を一口飲むと椅子に座った。
「青蘭はわたしの子飼いだった。 見た目が気に入ってね。 なに不自由ない生活をさせていたよ。 その代わり逃げたら殺すと約束させていたんだ」
怒りに手が震えるのを抑えるように拳を握り込む。
「だけどある日いなくなってね。 骨族の男に探して殺すよう命じたんだ。 上手くやったみたいだね」
女帝はほうと息を吐く。
「その皮を着させられるとは災難だったね」
「……。」
青蘭はなにも言わない。当たり前だ。青蘭なのだから。
「俺はおまえを戦わないといけない」
俺は女帝に投げかけた。女帝は俺を一瞥するとふふ、と笑った。
「その必要はないよ」
女帝は立ち上がるとその衣を脱いだ。そして……その皮を脱いだ。
「わたしはもう飽いた」
女帝……だったものはこちらに一歩一歩近づいてくると俺の手を取り、その核、黒い頭蓋骨に触れさせた。
「ああ、早く、あの人に会いたい」
骨族の女は俺の手を握り込むように力を入れていく。ぱきり、ぱきり、と核にヒビが入っていく。
「できるだけ粉々にしてくれ。 世界のどこまでも行けるように」
それが彼女の最後の言葉だった。
ばきり。
崩れた頭蓋骨はよほど脆くなっていたのか粉になって手のひらを滑り落ちていった。俺はその粉をかき集めて窓辺に近づく。
勢いよく吹き抜けた海風が粉を巻き上げてどこまでも運んでいった。
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