第3話

 それからしばらく歩いて、俺たちは龍国に着いた。龍国は商人の女(町人が言うには女帝)が統べる、商売が活発な国だそうだ。


 道をゆくゆく人々の相貌も青蘭に似ている。やはり青蘭はこの国に関わりのある人物なのではないだろうか。


「なあ、青蘭、」


 何か思い出すことはないか? と聞こうとした時。


「キャーーー」


 叫び声。なんだ。赤。なにが起きている。くずおれる体。待ってくれ。頭と体がバラバラになったように思考だけが早回る。


 俺は逃げようとした骨族の男を捕まえた。


「なにをした」


 横目で青蘭を見る。その顔は苦痛に歪み腹部からは出血している。


「みたらわかるだろ」


 憎まれ口を叩くだけの骨族の男を縛って青蘭に近づく。


「大丈夫か」


「だいじょうぶ」


 なんとか笑顔を作るその顔には冷や汗が浮かんでいる。


「おい、医者に案内しろ」


「へ、間に合うもんか」


「黙れ」


 青蘭に肩を貸し、男を引き医者に連れていく。医者はすぐに対応してくれた。そして白い顔でこちらをみた。


「血は止まりましたが毒がいけません。今夜が峠でしょう」


「そうか……そうか」


 俺は頭が真っ白になった。これからも続くと思っていた生活が音を立てて崩れ去る。青蘭は死ぬ。俺はどうなるだろう。


「ダグ」


「青蘭」


 息の混じった声で青蘭が俺を呼ぶ。


「ダグ、そんな顔しないで」


「骨族の顔がわかるのか」


「ダグのはわかるよ」


 はは、と掠れた声で笑う青蘭。これを失うのか。俺は。


「ダグ、一緒に寝よう」


「……。」


 医者を見ると黙って頷いた。本当に今夜で全てがおしまいなのか。空っぽな気持ちで青蘭の寝る寝台に横たわる。俺にはない温度を感じる。


「ダグ、好きだ」


「ああ、俺も好きだ。青蘭」


「はは、嬉しいなあ」


 青蘭は泣いていた。その雫に触れる。頬に触れる。唇に触れる。俺は青蘭の唇に口付けた。青蘭は驚いたような顔をして、そして笑った。


「おやすみ青蘭」


「おやすみ」


 翌朝目が覚めると青蘭は冷たくなっていた。全てが終わったのだ。俺は青蘭を抱きしめたあと、繋いでもらっていた骨族の男の元に向かった。


「やっと死んだかよ」


「黙れ」


 俺は男に近づいてその核、黒い頭蓋骨に手をかける。


「ひ、殺す気か?」


 男はニヤニヤしながらも怯えた声音でこちらを伺う。


パキン。


 核にヒビが入る。


「ひいっ」


パキバキッ。


 ヒビが大きくなる。


「やめてくれ!」


ぐしゃり。


 欠け落ちた核を手のひらで粉々にする。


「なんでもする! なんでもするから!」


「なんでもだ?」


「なんでもするさ。俺は女帝の手下なんだ口聞きだってしてやる。」


「女帝の手下……」


 俺は考えを改めてこう言った。


「お前が青蘭になれ」

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