第2話

 俺は龍国に向かうことにした。行ったことがない国だから珍しいものでも手に入るんじゃないかと思ったし、青蘭に関係がある国なんじゃないかと思ったからだ。


 青蘭に伝えると一瞬考え込むような顔をしてから「わかった」っと言った。


 道すがらガラクタを売って服を買った。龍国仕立ての上下。大きさも十分だし青蘭に似合うだろうと思った。


 飽きもせず着いてくる青蘭に衣服を与える。青蘭は嬉しそうに「ありがとう」と言った。


「やっぱり似合うな。 龍国生まれか?」


 その夜青蘭に聞いてみた。


「さあ。 覚えてないな」


 ここ数日青蘭と話したところ、青蘭には一定期間の記憶がないようだ。言葉は通じるし日常生活は問題なく行えているから全部忘れているわけではないと思うが、大変な境遇だなあと思った。


 そんな日々が続いたある日、ひどい雨が降ったので大きな門の下で雨やみをすることにした。骨族の俺には関係ないことだが人間の青蘭には寒かろうと背負子から厚めの服を引っ張り出して渡す。


「ありがとう」


 それを着た青蘭は格好は滑稽になっちまったが震えはおさまったようで感謝の言葉を述べた。


「やまねえな」


「そうだね」


 言いながら空を見つめるうちに青蘭の手が俺の手に触れた。おっかなびっくりのような動きを拒否せずにいると、今度は形を確かめるように触ってくる。


「骨族は珍しいか」


「……そうだね」


 そのうち青蘭の手は俺の手を覆って握り込む。指が絡み合いカタカタと音が鳴る。


 どういうつもりだ、と言おうとしたがなぜか言葉が出ず、俺はそのまま雨が止むのを待った。


 数日後、宿が取れずに俺と青蘭は気のいい町人の馬屋を借りた。藁の中に腰を下ろすと暖かくて眠気が降りてくる。


 そこでまた青蘭が俺の手に触れる。数えるようなその動きがなぜか心地良く俺は拒否しない。


「ダグ、嫌じゃない?」


「嫌? なにが」


 その言葉にふっと青蘭は笑って俺の腕を、肩を、肋を触ってくる。俺はくすぐったくて息を漏らすように笑う。


「ダグ、好きだ」


「おう」


 気持ちのいい微睡の中俺の歯に柔らかい唇が落ちてくる。変わったやつもいるもんだなと思った。


 俺と青蘭は寄り添うように眠った。


「おはようダグ」


 朝起きると青蘭は先に起きていたようで笑顔をこちらに向けてくる。


「おはよう」


 昨日のことを思い出して少し照れ臭いような気がして目をそらしてしまう。


「ダグ、好きだ」


 青蘭が唐突にそんなことを言う。


「わかった」


 さらに照れ臭くなって皮膚のない顔が熱くなるようだ。


「ダグは?」


「え?」


「ダグは俺のことどう思ってる?」


 なにを言わせる気なんだ。照れとも怒りとも言えない気持ちが湧いてくる。沈黙で通そうと思っても青蘭も覚悟を決めているようで一向に口を開かない。俺は諦めた。


「……だ」


「え? ダグ、もう一回」


「好きだ!」


「よかった」


 横目に青蘭を見ると馬鹿みたいに笑っている。俺は憎たらしい気持ちになって舌打ちをした。

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