骨族と人間

おおつ

第1話

 俺はダグ。ガラクタ売りの男だ。今日は仕入れ先から珍しいものが上がったと連絡を受けて港に向かっている。背負子に売り物を積み上げて早歩きで向かう。カツン、コツンと地面を蹴る音だけが響く。俺は骨族だ。


 骨族はいわば人間の骨だけで構成されているような生き物だ。骨格は人間とほぼ同じだが体内にもう一つ黒い頭蓋骨がありそれが核になっている。それが木っ端微塵に壊れれば存在が霧散するし逆に外骨格を失ってもそれさえ残っていれば意識は残る。


 そうこうしているうちに港に着いた。馴染みの男たちが3人ほど集まってなにやら話し込んでいる。


「おはよう」


「ようダグ」


 話しかけるとしゃがれた声が返ってきた。


「なんだ珍しいものって」


「これだよこれ」


 男らのうち一人が足元の白い箱を蹴る。それは一見すると冷蔵庫のようなものだった。


「冷蔵庫のなにが珍しいんだ」


 歩き損だったかと不機嫌を隠さずに言う。


「中身だよ」


 言い言い男は冷蔵庫の三つある扉の一番下を開ける。すると。


「おいマジかよ」


 人間の足が現れた。


「バラバラ死体なんて見たくないぜ」


 言うと男たちは笑って「まあ見てなって」と言い扉を全部開けた。そこには人間の男が横たわっていた。青みがかった黒髪に長いまつ毛をしている。白い肌は陶器のようで傷ひとつない。


「生きてるのか?」


「みたいだぞ」


 言われて近づけばたしかに腹部が上下している。呼吸をしているようだ。そ、と手を伸ばして瞳を見ようと瞼を開く。美しい白目が見えたあと、ぐるん、と目が合う。これまた美しい黒目だ。


「たしかにいきてる……!」


 言い終わるが早かったか手首を掴まれる。掴んだのは人間の男だ。他の男たちは距離を取る。


「……」


 俺は相手の出方を伺うように見つめた。人間もまたこちらを見つめている。


「ここはどこだ?」


 しばらくの沈黙のあと、人間の男はそう尋ねた。


「ここはクライデ国だ」


「そうか」


 人間の男はどこかほっとしたように相貌を崩し立ち上がった。


「俺は青蘭。 よろしくな」


 セイラン、異国の響きだなと思いながら覚える。差し出された手になにがよろしくなんだと思いながらも反射で手を握る。


「俺はダグ」


 挨拶すると青蘭はにっと笑顔を返した。


「話はまとまったか」


 距離をとっていた男たちが近づいてきた。どうやらこの男の処遇をどうにかするのが目的だったんだろう。


「なにもまとまってない」


「でもお前はダグと行くだろ?」


「そうしてもらえると嬉しい」


「なんでだ!」


 なぜか俺と行く気満々の青蘭。この短期間でとんでもないものを拾っちまったものだ。でも困ったように眉を下げる青蘭を見ると断る気も失せていく。俺は渋々了承した。


「まずは着られるものだな」


 俺は背負子から衣服を引き出し青蘭にあてがう。なんとかサイズの合いそうなものを渡して着てもらう。青蘭はけっこう背が高く、ズボンがつんつるてんになってしまった。


「今はそれで我慢してくれ」


「ありがとう」


 こうして俺たちは二人でガラクタ売りの旅に出ることになった。

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