第4話

深夜の塔の頂上——


冷たい風が吹き抜ける中、レイヴンとリコはひび割れた歌姫の水槽を前に立っていた、


水槽から漏れる小さな光が揺らめき、二人の視線を奪う。


光が徐々に形を成し、歌姫そっくりの人影が現れる。


レイヴンは息を呑み、灰色の翼を僅かに動かす。


「何だ……お前は?」


彼は頂上の冷たい床に立ち、疲労で声が掠れている。


人影が静かに口を開く。


「私は『残響の影』。歌姫が切り離した罪悪感の欠片よ」


その声は低く、鋭い自我が滲んでいる。


リコが驚いて一歩後ずさる。


「え、歌姫の一部がこんなことに?」


彼女はレイヴンの横に立ち、銀色の翼が緊張で硬くなっている。


残響の影がレイヴンをじっと見つめる。


「私は歌姫を憎んでる。君の反音の力があれば、私は彼女を押さえられる」


「結晶を探して欲しいの。私が時間を稼ぐよ!」


レイヴンは眉を寄せ、頂上の中央に立つ。


「結晶? さっき落としてしまったのか……!」


彼の声には警戒と焦りが混じる。


その時、水槽が軋み、歌姫がゆっくり立ち上がる。


彼女の目は怒りに燃え、黒い水が滴り落ちる。


「私の影ごときが裏切るのか! 消えなさい!」


歌姫が手を振り、黒い水が残響の影に襲いかかる。


影が灰色の光を放ち、水を押し返す。


「お前をここで止める!」


頂上が水と光の戦場と化す。


レイヴンは目を凝らし、頂上の床を見回す。


「結晶は……どこだ!?」


リコが慌てて叫ぶ。


「レイヴン、急ごう!」


彼女は頂上の端に立ち、手を震わせている。


残響の影が歌姫に突進し、光で水を堰き止める。


「レイヴン……頼むよ、結晶を探して!」


彼女の声が響き、灰色の光が揺らぐ。


レイヴンは水槽の周りを走り回る。


「まあ、簡単に見つかるわけないよな……!」


彼は頂上の崩れた床に膝をつき、破片をかき分ける。


リコが叫び、頂上の端を指す。


「レイヴン、あそこ! 水槽の台座の下に何かあるよ!」


彼女は床にしゃがみ、話しかける。


レイヴンが台座に駆け寄り、台座に手をかける。


「重い……動かねぇ!」


彼は焦りつつも、頂上に立ったまま力を込める。


リコが急いで隣に立つ。


「私も手伝うよ! 一緒に頑張ろう!」


彼女は銀色の翼を震わせ、台座を押す。


台座が軋み、少しずつ動き出す。


レイヴンが息を上げながら話す。


「もう少しだ、リコ!」


二人の手で台座が傾き、その下に灰色の結晶が現れる。


「これだ! 見つけたぞ!」


レイヴンは結晶を掴み、頂上の中央に立つ。


残響の影が、歌姫に光を叩きつける。


「レイヴン、今だよ! 結晶に刻んで!」


彼女の声が掠れ、黒い水に押され始める。


だが、歌姫が冷笑する。


「それで、私を止められると思ったの?」


彼女が水槽から黒い水を渦に変え、影を吞み込む。


「影が……!」


レイヴンが叫び、結晶を握り締める。


「お前を助けるぞ!」


彼の翼が共鳴し、反音が響き出す。


リコが叫び、頂上の端に立つ。


「レイヴン、天鳴を止めよう!」


結晶が輝き始めるが、歌姫が冷たく笑う。


「遅いわ!」


黒い水が結晶を包み、不協和音が発生する。


その力によって、結晶の力が徐々に弱まる。


天鳴が強まり、塔全体が揺れ始めた。


「何……? 天鳴が強くなってる!?」


歌姫が水を頂上に広げ、レイヴンを締め付ける。


「私の音は無敵なのよ? ……あなたたちは、ここで終わるの」


彼女の声が響き、黒い水が渦巻く。


リコが叫び、頂上の端に立つ。


「レイヴン、危ない!」


彼女の声が震え、銀色の翼が揺れる。


その時、黒い水が檻のような形に変わった。


新たに歌姫の「音の牢獄」が発動し、レイヴンとリコを中に閉じ込める。


レイヴンは牢獄の中で膝をつく。


「何だこれ……閉じ込められた!?」


彼の声が掠れ、灰色の翼が重くなる。


歌姫が牢獄の外から嘲笑う。


「これで終わりよ。黙層まで沈めてやるわ!」


残響の影が、外から再び光を放つ。


「レイヴン、結晶を私に渡して! 結晶の力を元に戻すよ!」


彼女の声は弱々しく、黒い水に覆われそうになる。


歌姫がその水を影に叩きつける。


「影が……邪魔をするな!」


水が影を圧倒し、彼女の光が薄れる。


レイヴンが立ち上がり、結晶を握る。


「影……受け取れ!」


彼は牢獄の中で結晶を投げようとする。


だが、黒い水が結晶を弾き返す。


「ぐ……っ!」


レイヴンが低く唸り、歌姫が冷たく笑う。


「無駄よ、お前たちの音は……私のものになるの!」


頂上が崩れ始め、牢獄が雲海に沈む中、底から「灰色の鎖」が現れる。


鎖が二人を縛り、冷たい感触が体を蝕む。


レイヴンは牢獄の中で鎖に縛られた。


「何だこれ? 抜け出せない……!」


彼の声が響き、灰色の翼が軋む。


リコが震えながら言う。


「レイヴン、耐えて……!」


彼女も牢獄の中で鎖に縛られ、苦しげに話す。


歌姫が雲海の上から見下ろし、二人を嘲笑った。


——その時、灰色の鎖が震え、低い声が響いた。


「この音は……お前か?」


声が牢獄の底から湧き上がり、鎖が動き出す。


レイヴンは牢獄の中で鎖を見つめる。


「何……? 誰だ!?」


彼の声が掠れ、結晶の破片を握る。


リコが、牢獄の中でレイヴンに話しかける。


「レイヴン、何か来るよ! 」


彼女の声が震え、銀色の翼が鎖に締められる。


灰色の鎖が牢獄を締め付け、雲海が渦を巻く。


渦の中心から、「灰色の眼」がゆっくり開き、二人を見つめる。


静かに眼が呟き、雲海が不気味にうねり出した——。

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