第十二章 鋼鉄の雨、弾丸を掴む手

牙との抗争を終え、街に再び静けさが戻ったかに見えた。しかし、桐人の心には、常に緊張感が漂っていた。敵は、姿を変え、形を変え、何度でも襲い来る。彼は、来るべき時に備え、自身の力を磨き続けていた。


特に、爆発の際に目覚めた、音で相手の動きを完全に把握する能力は、桐人にとって大きな武器となっていた。彼は、その力を研ぎ澄ますため、日々、厳しい鍛錬を積んでいた。静かな場所で、目を閉じ、周囲の微かな音に耳を澄ませる。風の音、木の葉の擦れる音、虫の羽音。あらゆる音に意識を集中することで、聴覚は驚異的なレベルまで研ぎ澄まされていった。


ある日、桐は、侠和会の事務所にいた。豪田から、新たな情報がもたらされた。


「桐人、最近、武器の密売組織の動きが活発になっている。どうも、近いうちに大きな取引が行われるようだ」


豪田は、深刻な表情で言った。武器の密売は、裏社会の資金源の一つ。放置すれば、更なる抗争の火種となる。桐は、その取引を阻止することを決意した。


その夜、桐人は、研斗と共に、取引が行われるという港の倉庫街に潜入していた。周囲は暗く、潮の香りと機械油の匂いが混ざり合っていた。


「桐人、敵の気配がする」


研斗が、小声で言った。桐人は、目を閉じ、音に意識を集中させた。複数の足音、話し声、金属が擦れる音。敵は、倉庫の中にいるようだ。


桐人は、倉庫に近づいた。すると、彼の目に、再びあの光の線が見えた。銃口から放たれる弾道の軌跡だ。しかし、今回は、これまでとは違っていた。複数の銃口から、無数の光の線が放たれているのだ。


「研斗!伏せろ!」


桐人は、叫んだ。その瞬間、倉庫の中から、一斉に銃弾が放たれた。銃弾は、暗い夜空を切り裂き、倉庫の外壁に雨あられと降り注いだ。


桐人は、研斗を庇いながら、物陰に身を隠した。銃弾は、容赦なく降り注ぎ、物陰に隠れていても安全とは言えなかった。


その時、桐人の脳裏に、ある考えが浮かんだ。弾道の軌跡が見える。音で相手の動きがわかる。ならば、銃弾を避けるだけでなく、掴むこともできるのではないか?


桐は、深呼吸をし、集中力を高めた。再び、弾道の軌跡を見る。無数の光の線が、彼の目に飛び込んでくる。彼は、それぞれの軌跡を、冷静に見極めた。


敵が、再び銃弾を放ってきた。桐人は、物陰から飛び出した。研斗は、驚きのあまり、言葉を失った。


桐人は、放たれた銃弾に向かって、手を伸ばした。まるで、空中で虫を捕まえるかのように、正確に、そして、素早く。


信じられない光景が、目の前で繰り広げられた。桐人は、空中で、銃弾を素手で掴んだのだ。複数の銃弾を、次々と。


研斗は、目を丸くして、その光景を見つめていた。桐の手に握られた銃弾は、熱を持ち、煙を上げていた。


敵も、信じられない光景に、言葉を失っていた。彼らは、呆然と立ち尽くし、銃を撃つことすら忘れていた。


桐人は、掴んだ銃弾を、敵に向かって投げ返した。銃弾は、敵の足元に転がり、彼らをさらに混乱させた。


桐人は、研斗に目配せをし、倉庫に突入した。敵は、完全に動揺しており、まともに抵抗することができなかった。


桐人は、音と弾道の軌跡を頼りに、敵を次々と制圧していった。彼は、敵の攻撃を完全に予測し、無駄のない動きでかわし、合気道の技を繰り出した。


研斗も、桐人との連携で、敵を圧倒していった。二人のコンビネーションは、完璧だった。


激しい戦いの末、桐たちは、武器の密売組織を壊滅させることに成功した。大量の武器が押収され、街の安全は守られた。


戦いを終え、桐人は、自分の手を見つめた。そこには、銃弾を掴んだ時の、微かな熱が残っていた。彼は、自分の力が、また一段階進化したことを感じていた。


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