朝のルーティン

茶村 鈴香

朝のルーティン

アラームが鳴って

目が覚めると

あの人は起きたかなと思う

朝は苦手だったよね


朝ごはんに卵とコーヒー

固茹で卵は喉が渇くみたい

あの人は文句も言わず

カフェオレで流しこんでた


もう暖かいから

タイツじゃなくてストッキング

女子高生じゃないから

生足は無理だな


あの人は変な癖があって

捨てたストッキングの伝線を

どこまでもどこまでもほどいて

遊ぶのが好きだった


変態っぽいからやめてよ

って言っても

人はどこかしら変態なのですと

真面目くさって言ってた


財布、スマホ、パスモ、鍵

化粧道具は口紅とパウダー

辛くなってきた7センチヒール

鍵かけなきゃ 留守番はいない


パソコンひとつ持って

スキルはあるらしかった

留守番、同居人、自宅警備係

ごくたまに恋人だったあの人


「どうしても

見たい景色があるから」と

バックパックにパソコンと着替え

ふらりと出てってそれっきり


引き留める理由も

引き留める権利もなく


あ もうバスが来る

私も終点の駅まで行かず

満開の菜の花畑で降りようか

何も考えず佇んでようか


もうバスが来る

私はやっぱり駅まで揺られて

パスモをタッチする改札

ラッシュの流れに身を任せる


おろしたてのストッキングが

伝線しませんように


どこかにいるあの人が

生きてて楽しくやってますように


職場のパソコン立ち上げて

「おはようございます」

あの人とはもう時差が

発生してるかもしれないね




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朝のルーティン 茶村 鈴香 @perumi

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