火浦マリさんの『旅行中心とその他のエッセイ』は、著者の豊かな人生経験と誠実な語り口が光る、味わい深いエッセイ集です。バックパッカー時代からピースボート世界一周クルーズ、母との旅行やリゾートバイト、そして体調不良や節約生活のエピソードまで、多彩な体験が誇張なく、ユーモラスかつ温かな筆致で綴られています。
旅行記としての情報量や臨場感はもちろん、どこか飄々とした距離感で、時に“失敗談”も包み隠さず語られるのが本書の大きな魅力。旅先での驚きや失敗、不安や感動、そして日常の断片が、読者に親近感と共感を与えてくれます。特に、長旅での苦労や予期せぬトラブルさえも人生の彩りとして捉え直す姿勢には、旅や人生の達人ならではの含蓄を感じました。
また、単なる旅行エッセイにとどまらず、親子の思い出や節約生活、不動産投資の苦労談など、人生のさまざまな局面が率直に描かれています。文章は過剰に美化されることなく、等身大の視点で淡々と進みますが、だからこそ余韻が残り、人生の“奥行き”を味わうことができます。
時系列をあえて崩した構成や、さりげないユーモアも読者を飽きさせません。旅や人生にちょっと疲れた時、あるいは新しい旅に出たくなった時に、そっと背中を押してくれるような一冊です。