追放された僕が居場所を取り戻すまで③




逃亡先のボロ屋敷はカーテンは常に閉め切っておりテレビなどで情報を得る手段も何もなかった。 唯一の娯楽は両親が定期的に買ってくる本。

しかし本の中とはいえ同じ年頃である物語の主人公が友達と楽しそうに過ごしているのを見てついに耐え切れなくなってしまったのだ。

外へ出られない鬱憤を何とか解消させようとしたのが裏目に出てしまった。


「バラードお願い、落ち着いて!」

「どうして僕はいつも一人ぼっちなの!? どうして外へ出ちゃいけないの!? 僕の何がいけないの!?」


辺りにあるものに八つ当たりし滅茶苦茶にする。 そして飛んでいった木製のトングがガラスを割ってしまった。


「お母さん! 今度の休みはどこへ行く?」

「そうねぇ・・・」


割れた窓の向こうから普段微かに聞こえてくる声がハッキリと届く。 親子以外の別の子供たちの会話も聞こえ楽しそうなのが伝わってくる。


―――・・・たまに聞こえてくる声だ。


「僕も行きたい」


今までは気にしなかったが今はそれにつられるように玄関へ向かおうとした。


「駄目だ、バラード!!」


今度はビショップに塞がれる。 強引に部屋へ戻されそうになるがバラードはビショップを軽々と投げ飛ばした。


「・・・!?」


ビショップは想像以上のバラードの力に驚きを隠せずにいる。 今まで力が強いと思ったことはあったがここまでとは思っていなかった。 バラードはまだ10歳。 ビショップの半分程の身長しかないのだ。

バラードは吹き飛んだ父を見て少しだけ顔を歪めたが欲求のまま玄関のドアへと手をかけた。


「キャーッ!!」


ドアを開けると偶然家の前を横切った子供と目が合った。 子供は叫び隣にいる母に抱き着いている。


「と、突然変異の子供・・・?」


その母は憐れむような目でバラードを見ていた。


「バ、バラード・・・!」


我に返ったビショップは慌ててバラードを家へと戻しドアの鍵をかけた。 挙動不審なビショップに動揺しているバラードは静かに尋ねる。


「父、さん・・・? 僕って一体・・・」

「・・・今まで黙っていて悪かった。 実は――――」


そこで初めてバラードは突然変異で産まれた普通の子ではないと教えられた。 カーテンが閉められているのもテレビが禁止だったのも人間の姿、特に子供の姿をバラードに極力見せないためだった。


―――父さんたちと僕の身体は違うと思ってはいたけど・・・。

―――それは単に大人と子供の違いだけなんだと思っていた。


「リチャードさん! やっと見つけましたよ!!」

「「・・・ッ!!」」


しばらく経ってドンドンと大きな音でドアを叩かれる。 確認しなくても政府の者だと両親は悟った。


「・・・さっきバラードの姿を見た人が政府に連絡したんだわ」

「・・・俺が行ってくる」


ビショップは覚悟を決めた様子で玄関へと向かった。 一方叫ばれたことで落ち着きを取り戻したバラードはエイジャーの腕で守られていた。


「・・・お母さん、僕の何が駄目なの? 突然変異って何? 僕みたいな人がいるのは悪いことなの?」

「・・・あとで全てを話すわ」


エイジャーと話している間に既にビショップは政府の人と交渉していた。


「いやいや、残念ですよ、リチャードさん。 我々政府で同じ仕事をしていた貴方たちがこんな重罪を犯していたなんて」

「お願いです、どうかバラードだけは見逃してください! 家からは一切出させませんので!!」

「それで済むと思っているんですか? 何故突然変異した者は殺処分しないといけなくなったのかよく知っているでしょう?」

「それは・・・」


ビショップは先程バラードに突き飛ばされた際に負った傷を見た。 両親も政府の人間として突然変異者を異端として扱ってきたのは事実なのだ。

なのに“自分の時だけ見逃せ”だなんて虫のいいことは分かっていた。


「奥様の出産を機に仕事を辞めるだなんて怪しいと思っていたんですよぉ」


当然“バラードだけが”など許されるはずがなかった。 産まれた時に政府に即報告し手放せば罪に問われることはない。 ただそうするとバラードは現在この世にいなかった。 または星流しとなる。

隠していたということで重い罪とされこの場で死刑と決まった。


「待ってください、お願いです!! 私たちが一生この子の面倒を見ます! だからどうか殺すことだけは!!」


ビショップに加えエイジャーも家の奥から叫んだ。 両親が何とか懇願したおかげで死刑は免れた。 だがそれは死を回避できただけで通例通り星流しが決定した。 しかも一家全員家族まとめてだ。

星流しはネアンデル人の常識からすれば間接的な死刑。 今すぐの刑執行よりは長く生きられるが、その代償は両親の命にまで及んだ。


―――・・・僕のせいなの?

―――僕がこんな姿で産まれたから?

―――僕のせいで父さんと母さんは・・・。


追放が決まった時の両親の顔は忘れられなかった。 逃亡生活は突如終わりを告げ生まれ育った星からも追放されることになったのだ。



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