追放された僕が居場所を取り戻すまで④
ネアンデル星への移動時間は高速ロケットを使用しても2時間程はかかる。 両親が『6時間経っても』と言ったのは行き帰りの時間に現地での作業時間、それを計算してだろう。
暇な船内での移動時間は瞑想とシミュレーションの時間にあてた。
―――何があっても落ち着くんだ。
―――暴走するんじゃないぞ・・・。
初めて暴走した時は自分をコントロールしようと考えていなかったため気が付かなかった。 ただ冷静になってからどうしてあのようなことをしてしまったのだろうと後悔した。
吹き飛ばされた父親は全身を強く打っていてしばらくの間まともに歩くことも難しかった。 それでも二人はバラードを恐怖することなく受け入れてくれたのだ。 今では強い力を有用なことに生かしている。
ただそれが暴力の嵐となってしまうかどうかは結局自分次第だ。
「着いた・・・」
手の震えが収まる頃には無事生まれ育った星へ到着することができた。
「まずは自分の見た目を隠さないとだよね・・・」
住んでいる星から持ってきた変装用の服を着てフードを深く被る。 そして手袋をして自分の見た目を隠した。
「怪しく見えるかもしれないけど仕方ないや」
これで何とか普通の人に紛れることができるだろう。 辺りを確認しながらロケットを降り探索を始める。 人目に付かない場所を選んだためかなり街から離れた場所に降りてしまった。
山の中に住むこともできるが、いきなり大人数で、となればそれも難しい。 とにかく調査のために現地の街へと向かうことにした。
―――僕たちが安全に暮らせそうな場所・・・。
その場所を求め歩いてみるも行き交う人はジロジロとバラードを見てくる。 格好から好奇の目を向けられるのは避けられなかった。
―――大丈夫だ、僕はまだ普通の人じゃないってバレていない。
―――俯いてフードを深く被っているから変に見られているだけだ。
自分に言い聞かせ何とか落ち着きを保つ。 こんな些細なことでも感情の波は揺らぐのだ。 両親はバラードを常に平常心でいさせようといい環境を作ってくれていた。
だがそれでも少しでも感情が起伏してしまえば暴走してしまう。 それは自分でも理解しているため深呼吸してこの場を耐えていた。
「あ、あの・・・」
時間も限られているため勇気を振り絞り人に尋ねてみる。
「人が少ない場所を探しているんですがどこかありますか・・・?」
怖くて目を合わすこともできない。 だが尋ねようと近付いても気味悪がられ離れていってしまう。
―――駄目だ、協力してくれない・・・。
―――こんな広い星で落ち着いた場所を突き止めるなんて一人じゃ無理だ。
バラードはこの星にいる時は外出したことがなかったため他の地域など全く分からない。 そのため必死に声をかけ協力を得ようとした。
―――僕みたいな突然変異の人がこの星にいたらいいのに。
―――そしたらすぐに協力ができていい街を作れそうなのに。
―――いや、もしそうだとしたら既にそんな場所を築いているか・・・。
それでも突然変異が暴れ出し普通の人を苦しめる可能性もあるため、たとえ離れた地域にいたとしても共存など有り得ない。
ただ以前起きた戦争を調べてみるとどうも最初に原因を作ったのは普通の人の方だった。 迫害された突然変異者が感情爆発を起こして大きな戦争が広がっていったのだ。
―――僕たちが危険なのは分かるけど僕たちの住む星がもうなくなりそうなんだ。
―――僕たちが生き抜くためには共存はできないだとか気にしていられない。
突然変異がこの星で発見されたら確実に殺されることは理解していた。 だがどうせあの星にいても死ぬのなら少しの可能性でも拾いたい。 そのような一抹の望みを持ってここへ来た。
しかし時間が経つばかりで一向に光路は開けない。
―――・・・どうしよう、誰一人として僕に協力してくれない。
―――もしかしてもう僕が普通の人じゃないってバレている?
―――だから僕と関わろうとしてこないの?
―――もう誰かが政府へ連絡した?
―――直に政府が来て僕を殺そうとする・・・?
そのような不安がバラードの心を包み感情の波が揺れ始める。
―――あぁ駄目だ、落ち着け、落ち着くんだ・・・!
―――きっと大丈夫、まだバレていない・・・。
自分を落ち着かせるよう両腕で自身の身体を強く抱き締めた。 だが次第に周囲がざわつき始め視線が突き刺さったのがトリガーとなる。
「・・・あああぁあぁぁあぁあああぁ!!」
そしてついには耐えられなくなり近くにあった建物の壁を殴ってしまった。 それが普通の人間と違うのはただ拳を振るったそれが家屋の半分を吹き飛ばす爆弾のような威力だったことだ。
もちろんバラードは中に人がいるかなんてことも気にする余裕はない。 幸い人がいなかったようだが人がいれば間違いなく死んでいた。
「何だ、何事だ!?」
近くの者やこの建物にいた人が騒いで避難していく。
―――駄目だ、これ以上は駄目だ、お願い、止まってくれ・・・ッ!
そう心で願うも通じず次々と建物を破壊していってしまう。 コントロールが効かない自分に涙を流していると勢いでフードが外れてしまった。
「あ・・・!」
慌ててフードを被るももう遅い。
「アイツは人間じゃない! 突然変異の化け物だ!!」
尖がっている耳を見た者がそう叫び野次馬は悲鳴を上げながら騒ぎ出した。
―――に、逃げないと・・・!
今は建物を破壊している場合ではないと頭でも理解したのか足が動き始める。
「逃げたぞ! 逃がすな、捕まえろ!! 殺せ!!」
そう言ってバラードの後を人間が追う。
―――・・・やっぱり人間は僕たち異形を認めてはいないんだ。
―――それにしても化け物呼ばわりは酷過ぎるよ。
やはり共存など無理だ。 そのようなことを考えながら走っているといつの間にか行き止まりへと追い詰められていた。
―――もう、駄目だ・・・。
大人しく捕まり殺される。 その未来が見えた時頭上から声がかかった。
「上って!!」
上を見ると高い塀の上に少女がいて手を伸ばしていた。 だが塀が高過ぎて手が届くどころの話ではない。
「上れるでしょ!?」
そう言われ思い出した。
―――そうだった・・・!
精神的にも追い詰められ忘れていた。 そもそも岩だらけの星で壁など上る機会もないため気が付かなかった。 手袋を外しどんなものにも張り付く手でバラードは壁を上り少女を目指した。
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