追放された僕が居場所を取り戻すまで②




バラードが生まれる前、両親は政府で働く高官だった。 規律を守り突然変異者への対処に関与したこともある。 積極的に突然変異者を排除していたわけでもないが、否定していたわけでもない。

どちらかと言えばそれが当たり前だと思っていたのは以前起きた大規模な戦争が凄惨を極めたためだ。 そのような二人に出産の機会が訪れる。 貴重な双子ということもあり二人は大層喜んだ。

しかし手放しで喜んだわけでもなく一抹の不安も抱えていた。 そして選んだのは自宅での秘密裏の出産だった。


「元気に産まれましたよー! もう一人いきますからねー」


まず無事に姉が生まれた。 双子とはいえ二卵性であることが分かっていて性別が違うことも判明していた。


「はい、こちらも元気に産まッ・・・」


つまり男の子が無事に生まれる予定だった。 しかし出産の手伝いをしていた召使いの声が急に止まる。


「・・・どうしたの?」


エイジャーは疲れ切った様子で尋ねるも召使いは何も言葉が出てこない。 どうやら生まれた赤子を見て数人の召使いの顔が青ざめていた。


「ま、まさか・・・」


不審に思いビショップが確認する。


「こ、この子は・・・!!」


ビショップも驚いた様子で固まっていた。


「・・・貴方までもどうしたの・・・?」


エイジャーだって政府の高官で馬鹿ではないためその可能性も考えていた。 ただ先に生まれた子は間違いなく通常の女の子で、次に生まれてくるのは二卵性とはいえ双子の子。

一人目が無事に生まれた時に心から安堵していたはずなのだ。


「・・・いいか、落ち着いて聞くんだ」

「・・・」

「二人目に産まれたバラードは――――」

「・・・!」


バラードにはしっかりと突然変異が現れていた。 尖った耳に三本の指、双子のもう一人の見た目は普通の人間なのにバラードだけ明らかに違う。


「どうして私たちが・・・」


顔を伏せて泣くエイジャーを見てビショップが決心したように言った。


「・・・この子はちゃんと我々が育てよう」

「・・・!」


その声にエイジャーは顔を上げたが召使いの一人が言った。


「なりません。 もし政府に見つかった場合隠匿した人間全てが罪に問われます」

「分かっている。 だから我々二人は覚悟を持った上でこの子を育てる。 ・・・いいな?」


ビショップはエイジャーを見る。 それにエイジャーも覚悟を持った表情で頷いた。


「二人・・・」

「君たちは今すぐ退職してもらう。 私たちとの関係は最初から存在しなかった。 だからもうここへは来なくていい」


ビショップは召使いたちとの関係を絶ち切った。 隠していることがバレれば召使いたちも同罪として扱われてしまう。


「今日のことは生涯黙っていてもらいたい。 もし外部へ漏れるようなことがあれば俺はこの子の親として責任を果たすことになるだろう」

「それって・・・」

「これ以上何か言うことはない。 この家で召使いをやっていたことは忘れ幸せな人生を君たちには生きてほしい」

「・・・分かりました。 そちらの子は・・・?」


そう言って一人目に産まれた赤子を見る。


「その子も当然私たちが責任を持って育てる」

「ですがずっと隠し続けるのは不可能かと・・・」

「その時は俺が責任を取るだけだ」

「・・・かしこまりました。 ご主人様のお屋敷で随分といい思いをさせていただきました。 親子共々の平穏ご無事をメイド一同祈っております」


リーダーの言葉を聞き召使いたちは深いお辞儀をしてこの家から去っていった。 産まれた赤子が突然変異だった場合、人はそれを嫌がりすぐに捨ててしまう人が大半だ。

だがバラードの両親はそうではなかった。 バラードを隠しながらでも育てていこうと決めたのだ。


「多少窮屈な思いをさせてしまうことになるが仕方がないな」


見た目でバレてしまうため家から出すことはできなかったが、勉強などは両親が教えることにし不自由な生活はさせないようにした。 しかし人の耳目はどこにでもある。

平穏な生活が長く続くはずもなかった。


「あのー、すみませーん! 出てきてもらえますかー?」


ある日『屋敷に突然変異した子がいる』と聞き付けた調査団がやってきたのだ。 ただ幸いだったのは長女である娘は通常の子だったことから彼女を見せることで誤魔化すことができたこと。

出生届けのようなものを出していないため双子が生まれたという情報は出回っていなかった。


「とはいえ居場所がバレてしまえばこれ以上ここに住むのは危険だ」

「だけど行く当てなんて・・・」

「誤魔化しているのがバレるのも時間の問題なんだ。 今回は噂レベルだったからあの程度の人数で来たんだろう。 もし本当に確信を持って調査へ来たのならもっと大人数でその時はただでは済まない。

 幸い貯蓄はかなりある。 これだけあればしばらくの間はどうとでもなるはずだ」


調査から逃げるため屋敷を捨てることを決意した。


「待って! この子はどうするの?」


エイジャーは抱えている双子を見る。


「・・・流石に二人同時には連れて逃げられない。 見つかればこの子までどんな目に遭うのか分からない。 この子は普通の子として生まれたんだから普通の子としての人生を送る権利がある」


子供はまだ物心がついていない。 決断するなら今だと通常の見た目の子を親族に預けることにした。 当然エイジャーの強い反対があった。

しかし家の周りを怪しい人間がうろつき出したのを見て決心したようだ。 全ての財産を処分し多額のお金を渡すことを約束すると親族は了承した。


「でもどうして急に預かってほしいだなんて・・・」

「深いことは言えない。 ただ事情ができたんだ」


急いでいることもあり言葉を濁して預ける。 どうしても真実を言うことはできなかった。 そして必要最低限の物だけを持っての逃亡生活が始まった。


「バラードは何の心配もいらないからね」


人里離れた場所に移り住み街のはずれのボロ屋敷を借りた。 それでも二人はバラードにはたくさんの愛情を注ぎ順調に育っていった。 しかしそれは年月が経ちバラードが10歳の時に崩れ去った。


「どうして僕は外へ出られないの!? 僕だって友達がほしい! 僕だって外でたくさん遊びたい!!」


突然変異者の抗えない衝動、感情爆発によって。



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