追放された僕が居場所を取り戻すまで

ゆーり。

追放された僕が居場所を取り戻すまで①




地平の果てまで続く荒野に点々と人々の姿。 誰も彼もが額に汗しながら開拓を進めている。


「バラード、この大きな岩を運んでくれる?」

「分かった! 力仕事は任せておいて」


どうやら岩山から転がり落ちた巨岩が道を塞いでしまったらしい。 大きさは成人していないバラードの優に3倍。 普通であれば到底持ち上げることのできないそれをバラードは片手で軽々と持ち上げた。


「父さん、母さん! 岩はここでいいの?」

「あぁ、そこでいいよ。 いつもありがとな。 道の補修は俺がやっておくから」

「この星をよくするためなんだから感謝されることはないよ」


バラードと両親は住んでいた星を追放され追放者の星で暮らしていた。 植物はほとんどなく岩場ばかりの星を追放者たちで何とかギリギリ生きていける場所。


―――僕がここへ来た時は住むにも住めないような星だった。

―――だけどここまで綺麗になったんだ、僕のような異人でも暮らしていける場所を作っていきたい。


バラードは自分の両手の平を見た。


―――・・・どうして僕が突然変異に選ばれたんだろう。


バラードたちが元々住んでいた星では極稀に突然変異が起きた子供が生まれる。 まだ何故そうなるのか定かにはなっていない。

過去に流行したウイルスの影響といった説があったり異星人との異種交配が原因だとも言われている。

ただ一つ言えることは突然変異が起きていない人々でさえDNAに普通なら有り得ない変異が見られるということだ。


「やっぱり僕のこの見た目って普通じゃないのかな。 ここには僕に似た人がほとんどだけど」


突然変異が起こると何らかの特殊能力と外見の変化が起きる。 耳は尖っており手足の指は三本、足や手の平は吸盤様に変化していてトカゲのように壁をよじ登ることもできる。

ただいいことばかりではなく、迫害されるに値するデメリットもあった。


「バラード、気にしないの。 物を大切に持ち続けられる手は素敵じゃない」


不安に思っていると母のエイジャーにそう言われた。 続けて父のビショップにも言われる。


「バラードの『僕たちだけの星を作っていこう』という言葉のおかげでここにいるみんなは救われた。 まだ生きよう、という希望が持てたんだぞ。 自信を持て」

「・・・うん、ありがとう。 じゃあ次の場所を開拓するね」


バラードはこの場から離れた。 眺めてみれば人々は単独で作業していることが多く、複数人で作業にあたっているのはここくらいである。

目を瞑ると心の中にある自分では制御できない何かを微かに感じる。


―――・・・僕は自分が怖い。

―――いつ感情の波をコントロールできなくなるのか分からないのが不安でたまらない。


異形とも言える外見と特殊な力、更に自身を制御できないとなれば普通の人々にとっては怪物も同然。

昔は共存していたが小さな迫害が大きな炎となって変異した者と普通の人で大規模な戦争が起こってしまう。 一人一人の能力は戦争向きな突然変異者であるがあまりにも数が違い過ぎた。

それにいくら生身で上回っていても現代戦において重要なのは武器と機械なのだ。 それでも普通の人々にも大きな被害があり突然変異者の敗北で彼らの処遇が決定された。


―――僕だけなら分かるけどどうして父さんたちまで・・・。


この星はほぼ異人しかいないためたとえコントロールできなくても理解はし合える。 だがバラードはトラウマが蘇るため恐怖だった。 モヤモヤとしながら次の岩を運ぼうとしたその時だった。

星が小さく揺れ始める。


「え、何? また地震?」


最近頻繁に地震が起き酷い日には10回、20回と地震が起きる。 ほとんどの揺れが小さいため時間が経てば落ち着くと思っていたが、どうもいつもと違うらしい。


「今回大きくない・・・!?」


地震は想像以上に長く揺れが徐々に大きくなっていく。 急いで両親のもとまで戻った。


「父さん、母さん! 無事!?」

「無事よ、でもそろそろ限界かもしれないわね・・・」


両親は悟っていたようだ。


「この星は追放者だけが来れる場所。 捨てられた我々が行き着いた捨てられた星。 いずれこんな日が来ることは分かっていた」

「きっともうこの星は保たない」

「そんな・・・ッ!」


追放者同士助け合い平和に暮らしてきた。 だがそれがまたしても崩れ去ろうとしている。 揺れは何とか落ち着いたが所々地面に亀裂が走っている。


「どうにかならないの!?」

「星の寿命はどうにもならないだろう」

「強いて言うならこの星から脱出・・・。 だけど他の星には酸素がないし生きていける場所は見つかっていない。 何とか探してはいたけど、そう簡単に見つかるわけがなかったの」

「ここは何万年も前に捨てられたのをやっとのことで見つけた星なんだ。 他に似たような星があればとっくに移り住んでいるさ」


それらの会話でバラードは閃いた。


「・・・分かった。 ならネアンデル星へ戻ろう!」


その言葉に両親は目を開く。


「・・・確かにこの星が駄目となれば無理は承知でもそれしか手はないだろう。 だがリスクは大きい。 宇宙船で暮らしていくという手もあるが時間稼ぎにしかならないだろうからな・・・」

「僕が一度ネアンデル星を偵察しに行ってくるよ」

「どうしてバラードが行くんだ!? 危険な真似は止めなさい」

「そうよ。 見た目が違うというだけで迫害をし始めるような人たちなんだから貴方が行けば危険が大きいわ」

「母さんの言う通りだ。 バラードが行くと言うのなら父さんが行った方がいい」

「自分でも危険だと分かってる。 でも僕が追放されることが決まった時父さんたちは僕を守ってくれた。 その恩を返したいんだ」

「それをここで返さなくても・・・」

「それに父さんたちはネアンデル星で顔が売れていたんでしょ? 僕が行くのとリスクは変わらないと思う。 寧ろ人並み離れした力を持っている僕の方がまだ危険は少ないんじゃないかな?」

「・・・感情爆発が起きたらどうするんだ?」

「もう何年も自分と付き合ってそれなりにコントロールする術を学んだよ。 完全に制御はできないけど少しくらいなら平気だと思う」

「・・・本気か?」

「本気だよ。 僕たちでも住めるところがないか探してくる」

「だったら私たちも行くわ」

「母さんたちはここにいて。 偵察、って言ったでしょ? また戻ってくるよ。 母さんたちを危険な目に遭わせたくない」


両親は止めようとしていたが身体能力が秀でているバラードを見て信じてくれたようだ。


「・・・分かったわ。 誰か他の子も連れていく?」

「人は少ない方がいいから僕だけでいい」

「俺たちが言うのもあれだがネアンデル人は皆敵だ。 気を付けるんだぞ」

「心配だから6時間経っても戻ってこなかったら探しにいくからね」


その言葉に頷いた。 そしてここへ来る時に乗り込んだロケットの中へと入り出発した。



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