第5話 チーターとオオカミ
●監禁生活50日目
遂に内包闘気量がニ闘級となり全体の闘術の練度も格段に向上した。
闘級だけで言えばシンキさんと同等。練度的には遥かに劣るが【偽装】に関してはもはや極技に分類される程の練度と言っても過言ではない。
そして現在、二闘級となりストックできる属性闘気が三つ増えたため 【合成】を用いた新たな属性闘気の開拓を行なっている。
まず、目潰し用に【火】、【風】、【土】を合成した属性闘気【砂】をストック。加えて足止め用の【土】の属性闘気と【水】の属性闘気を合成した【泥】の属性闘気をストックした。
絡めては多いに越したことはない。誰よりも体格が小さい分、手数で差を埋めなければならないのだ。
最後に防御用の【砂】と【火】による【硝子】の属性闘気を生み出した。
現代の強化ガラスの仕組みに関してはブラック企業勤めの元社畜には知り得ないので昔ネットで見た最古の強化ガラス【オランダの涙】を再現出来れば大抵の物理攻撃は防ぐことが出来るだろう。イメージは浅草の金のう○ちの先端が伸びた様なフォルムだ。
今後は闘術の練度向上や闘気を増やすことだけでなく新たな闘術の開拓にも力を入れていこう。
●監禁生活60日目
朝食を食べ終えいつもの如く鍛錬を始めようとした時、遣り手婆のキヨが仕置き部屋にやってきた。
「顔が取れちゃう!」
「お前はここで反省おし!」
ポイっと仕置き部屋にその幼女を放り込みキヨはその場を去る。
どうやら新入りが来た様だ。
新たな
放り込まれた豹柄の耳を生やす幼女はしばらくの間茫然としていたが数分後やっと状況を理解したのか泣き喚き始める。
「ぴぎゃあああ!ここから出してぇぇ!」
普通ならこういう反応なのだろう。ちらっとシンキさんの方を見るとあちらも僕のことを見ていて、顔には『なんとかしろ』と書いていそうな面倒顔を浮かべていた。
ただこういうのは焦らずに彼女が落ち着くまで見守るのが定石。今話しかけても彼女の耳には届かないだろうから。
そしてシンキさんが耳栓をつけ始めてから数分後、ピタッと鳴き声が止んだ。するとコテンっと急に倒れ、次はいびきをかき始めた。
泣き疲れというやつだろう。
子供って本当に自由だ。
●監禁生活61日目
僕は今幼女をモフっている。
中年男性のままだったら連行されていたな。
「どうして勝てないの?」
彼女の名前はフユ。チーターの獣人さんだ。豹の獣人と間違えられることが多い種族だがモフラーの僕には一目瞭然。間違えることはない。
彼女も僕と同様に【桃源郷】から脱走した所謂第二号とのこと。塀の下を掘り脱出したらしい。ただ僕とは違って数分もしないうちに偶然本通りに居合わせた若い衆に捕らえられてしまった様だ。
「いやぁ運が良すぎて困っちゃうな!」
現在、新規モフへのモフ的調査を行うため以前シンキさんにも仕掛けたじゃんけん勝負を行なっていた。
ただ今回は立場が違う。それと血闘による勝負ではなく純粋な遊戯としてのジャンケンである。
僕が全勝すれば5分間フユをモフる。フユが一度でも僕に勝てば何故か一生フユの下僕にされてしまう。
僕だけリスク高くないかと思ってしまうが単なる子供同士のお遊び。そこまで重く捉えてはいない。
それに負けるつもりは一切ない。
何故なら今の僕は子供なのだから。
「イカサマよ!」
「確かに僕はいかす様をしているがイカサマなんてしてないよん!」
さぁ、黙って僕にモフられたまえ。
すると遂にモフられ続けることに嫌気が刺したのかフユから別の遊びを提案された。
「次は鬼ごっこで勝負しなさい!」
いかにも種族的有利な勝負に持っていこうとするフユだが僕は一向に構わん!
モフッて良いのはモフられる覚悟があるやつだけ。僕の場合は下僕になっちゃうんだけどな。だが僕は負けない。
「良いだろう。その勝負受けてやる」
最初の鬼はジャンケンで負けた方が鬼になる。無論負けたのはフユだ。
「隙あり!」
負けること前提のパーによる平手打ち。
レンは難なくそれをかわす。
「チッ」
「姑息すぎだろ!」
「勝てばよかろうなのよ!」
勝つことに貪欲なフユは無意識なのか闘気の循環スピードを引き上げ肉体の重量を減らし俊敏性を向上させていた。
レンもまた【思考加速】【身体強化】を付与しフユから逃げ続ける。
「捕まらない!」
「モフられる準備をしておくんだな?」
余裕綽々の笑みをこぼすレンだが転生者としての弊害か種族特性というものを見落としていた。
次の瞬間フユの両脚の筋肉が隆起する。
そして、闘気量四闘級に見合わない圧倒的瞬発力を見せた。
気がつけば目の前に迫り来るフユの手。
しかし、【思考加速】により冷静に次の手を考えレンは行動に移す。
「甘いわ!」
タッチされる直前、レンはその場から上に跳躍し回避する。勢い余り天井に激突しそうだったので身を翻し両足を天井に付けた。
「嘘でしょ?!」
フユは唖然とする。
それは避けられたことに関してではなくいつまで経っても天井から落ちてこないレンに対し驚愕していた。
なぜなら今のレンはまるで重力を無視したかの様に天井を闊歩していたからだ。
これは【闘気操作】の応用で天井に流れる闘気を操り、それを両足に纏うことで天井に張り付いている。
「これでタッチ出来まい!」
圧倒的安堵。
圧倒的愉悦。
圧倒的勝利。レンは高笑いならぬ天井笑いを決め込んだ。
そして、幾分か過ぎた頃フユは体をふるふると振るわせ最後にはポツポツと泣き始めた。
これはたまたま足が遅い人が鬼になってしまい、誰も捕まえられず自身の不甲斐なさに打ちひしがれて泣いてしまうあの現象。
ただあの現象には続きがあって......。
「ごめん、まさか泣くなんて思わなくて......」
「タッチ」
女の子がよく使う手【泣き落とし】に引っかかり鬼が交代するオチである。
ただ、なぜか許せてしまうのが男の子の
この子の将来が楽しみである。
●監禁生活65日目
フユとは友達になった。
鬼ごっこで負けてしまったが流石に下僕は嫌なので、友達という事でなんとか譲歩してもらったのだ。
そして今日、また新たな
「我が名はカンナ!偉大なる黒狼族の最後の生き残りにして群れの長なり!」
脱走者第三号である。
だがこの子は何故か正門から脱走しようとして数秒で捕まったらしい。
理由は単純明快、その方がカッコ良いからだと。少しばかり厨二病気質があるのだろうか。
「群れの長ってことは他にも仲間がいるのか?」
だとしたら紹介して欲しいものである。モフ友はいくらでもいて良いからな。
「......い、いません」
カンナは気恥ずかしそうにボソッと呟く。
「それって俗に言う1匹狼ってやつでは?」
「こ、これからなる予定なのです!」
赤面しながら吠えるカンナ。
そこでカンナから群れに入らないかと勧誘される。
「私は良いわよ!でも群れの長は私ね?」
胸を張り前にしゃしゃり出るフユ。
「わかりました。なら腕相撲で群れの長を決めましょう」
強い奴が偉い精神に則り三名による腕相撲が始まった。
まず最初に戦うのがカンナとフユである。
闘気量で言えば互角。【身体強化】の練度で勝敗が決まるだろう。
結果接戦を勝ち抜いたのはカンナだった。
途中まで力が拮抗していたのだが体力的にフユが最初に根を上げ押し負けたと言った感じだ。チーターの弱みが出てしまったようだ。
そしてシード枠の僕だがめちゃくちゃ舐められている。
もはや消化戦と言わんばかりに余裕顔を浮かべるカンナ。
なんなら指でやってやろうかと言われたことで少しばかりカチンときたレンである。
案の定レンの勝利で幕を閉じた。
「とりあえず、長の権限でお前らモフモフ確定な?」
その後めちゃくちゃモフッてやった。
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