第2話 闘術
生まれてから体感半月が経過した頃、とうとう自分の名前が判明した。
どうやら僕の名前はレンというらしい。たくさん喋りかけてくれるおかげでリスニング力がかなり向上したと言って良いだろう。
片言ではあるがなんと無く意味を理解し聞き取れる。まさかこの短期間で聞き取れる様になるとは赤ん坊の言語習得能力の高さには驚かされるばかりである。
まぁ、一番の要因は暇である事とおしゃべりなダヴァンシェのおかげと言っても良い。
また、僕の聴覚が非常に優れているというのも一つの要因なのかもしれない。
兎は3km先の音も聞こえるほど聴覚が優れている。兎耳を生やす僕もまた同様なのだ。
言語理解に関してはとても順調。
加えてこの異世界についてかなり詳しくなったと言っておこう。
しかし、知識が増え、言語を理解できるが故、また聴覚が異常に優れているためか聞きたくもない音まで拾ってしまう。
例えるなら女郎たちの喘ぎ声や、遣り手の叱責、怪しげな密談、親に売られた子供達の泣きじゃくる声等耳を塞ぎたくなるものばかりだ。
込み上げる将来への不安。
禿になることは殆ど確定しているがけつあな確定だけは絶対に回避したい。
そのために今出来ることといえば闘気を増やすことである。
【闘気】とはいわばこの世の生きとし生けるものならば必ず保有している生命エネルギーのことで、【闘術】を習得するために必要な力なのである。
体内にある闘気を枯渇させ周囲に漂う闘気を取り込む。それを繰り返していけば闘気量の最大値を増やすことができるらしい。
一応この【桃源郷】のルールとして性交をするにあたって互いの合意の元行われる。
だが、中には強引な奴もいるらしく自衛手段は身につけておいた方が良いと考えダヴァンシェから【闘術】について教わったのだ。
闘気の量は闘級で分けられる。上から順に一闘級、ニ闘級、三闘級、四闘級、五闘級、六闘級、七闘級で一つ上がるたびに約50倍になると言われる。
生まれ持った闘気量は種族によって差があるらしく、最弱と謳われる兎の獣人の闘気量は七闘級に分類される。
そのためレンは【闘術】を習う以前に闘気が少ないため増やさなければならないのだ。
ダヴァンシェ曰く若ければ若いほど闘気量の増加率が高い傾向にあるらしく本当に増やすとしたら今しかないのである。
体内にある闘気を吐き出し、周囲に漂う闘気を吸い上げる。
まるで全身で呼吸をしている様な感覚と言えば良いのだろうか。
ただそれをやると何故か体まで動いてしまい縮こまったり背伸びしたりととても忙しない。
その光景を見ていた遊女たちには可愛い可愛いと言われ男として少々複雑な心境であった。
◇◇◇◇◇
若すぎたのだろうか。
朝から晩まで常に闘気を増やし続けた結果既に三闘級にまで増やすことに成功した。
無論これからもまだ増やし続ける所存だがそろそろ闘術を教わりたい。
現在三歳を迎え言語に関してはもはやネイティブに話せる。そして、二足歩行もマスターし部屋の中を走り回れる様にもなった。
『良いだろう。闘術を教えてやる。というか闘気を増やす行為自体が一種の闘術なのだがな』
闘気を増やす闘術を世間一般では【増闘法】と呼ばれるらしい。
そして闘術にも習得難易度によって階級があり上から絶技、極技、激技、戦技、闘技に分けられる。
また、その闘術の練度に寄って階級が上がる場合もある。
【増闘法】は闘技に分類される闘術で闘技はいわば基礎中の基礎の闘術である。
闘技ができていなければ戦技以上の闘術を習得できない。故にレンは五つの闘技をダヴァンシェから教わることになった。
一つ目、【闘気操作】。
体内にある闘気を動かしたり、留めたり、圧縮したりと自在に闘気を操る闘術である。
二つめ、【偽装】。
闘気を極限にまで圧縮し闘気の量を偽装する闘術。ダヴァンシェ曰く獣人にとって闘気とは地位や財産そのもの。偉い人が高い時計を身につけたり、高級車に乗ったりするのと同様で膨大な闘気を纏うものは必然的に高い身分のものが多い。
故に傲慢で、常に力を誇示し、自身よりも闘気量の低いものを軽視する傾向がある。レンの場合同格の相手と対峙する際殆どが体格差で不利を強いられることになるだろう。
そこで、自身の可愛らしい容姿をフル活用しさらに【偽装】で欺ければ不意をつくことができる。
この世界では戦闘の際一度の隙が命取りになる。まさに僕のための闘術なのかもしれない。
三つ目、【属性抽出】。
この世の自然物には微弱ながら属性を纏う生命エネルギー(属性闘気)を内包しており、それを抽出し体内に留めておく闘術である。闘気操作を用いれば攻撃に特定の属性を加えるなど様々な効果を得ることが出来る。
四つ目、【同化】。
抽出した属性闘気を無属性の闘気と混ぜ、同化させる闘術。1の属性闘気量を10にも100にもすることができる。
五つ目、【合成】。
属性闘気同士を掛け合わせ新たな属性闘気を生み出す闘術。水と炎の属性闘気を掛け合わせ爆死した者がいるらしく合成は慎重に行わなければならない。
『それじゃ頑張りたまえ。私は抽出用の媒体を持ってくるから窓は空けといてくれ』
そう言って彼女は壁をすり抜け何処かへ行ってしまった。
ちなみに彼女を知覚できるのは僕だけらしく彼女が一体何者なのか未だ分からない。
最後にモフッておけば良かったと後悔し早速鍛錬を始めることにした。
◇◇◇◇◇
闘術を習い始めて一年が経過した。
正直言ってかなり手こずった。
まず、抽出した属性闘気が霧散しやすく幾つ媒体を無駄にしたか分からない。取りに行ってくれたダヴァンシェには本当に感謝している。
ただ食人植物だけは持ってきて欲しくはなかった。
異世界の植物は特殊なものが多い。
以前ダヴァンシェが持ってきた抽出媒体の食人植物がまだ死んでおらず喰われかけたことがあったのだが、とある熊の獣人の若い衆がやってきて始末してくれた。あれは本当に死んだかと思ったよ。
色々あった一年間だったがやはり人は本当に死ぬ気になれば何でも出来る様で寝る間も惜しんで修練に励んだ結果、計五つの闘術を無事習得することに成功した。
現在、体内に留めておける属性闘気は計六つが限界で現在火、水、風、土、雷、氷の属性闘気をストックしてある状態である。
『それじゃあ次は戦技【身体強化】と【思考加速】について教えよう』
とうとうこの日が来た。
僕の尻を守る上で必ず習得しておきたい闘術、それが【身体強化】と【思考加速】である。
戦闘において必ずと言って良いほど使用される闘術であり、この二つの闘術の練度で勝敗が決まると言っても過言ではない。
そして、ダヴァンシェの個別指導が始まった。
まず、【身体強化】についてだが意外にもすぐにできた。
メカニズムはとても簡単でまず体に闘気を纏わせ圧縮し闘気の鎧を作る。次に体内で血液と同様に闘気を循環させる。
あとは用いる闘気量と循環スピードを調節すれば完了である。用いる闘気量が多いほど体重は重くなり、循環が早ければ早いほど身軽になる。
故に【身体強化】は内包する闘気の量がとても重要なのだ。
次に【思考加速】に関してだが......はい、めちゃくちゃ難しかったです。
いわば脳版の身体強化みたいなものでまず脳を闘気で覆い闘気で作り出した擬似的な脳波を流すことで思考を加速させることができる。
だがこの脳波の調整が難しすぎる。
慣れれば身体強化と同様に闘気を増やし擬似脳波を増やすことでより洗練されたゾーンに入ることができる。
要練習が必要みたいだ。
尻穴を守るためなら脳が焼き切れようが絶対に習得してみせる。
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