リオン王子 side

兄上に保護した女のことを話、様子を見るため一緒に部屋に向かって丁度たどり着いた時「きゃあ!」という叫び声が聞こえた為すぐにノックをして入室する


そこには椅子から落ちた状態で青い顔をしているヘレンと、目を覚まして止血の体勢になっている保護した彼女がベッドに座っていた



一体何があった?突き飛ばした?部屋に運ぶ頃にはもうそれほど血が大量に流れ出るようなことは無かったと思うが


問えばヘレンはすぐさま椅子に座り直し治療を始めた



治療する直前、女の子が一瞬苦しそうで耐えるような顔をした事から二人の間に何かあったのは間違いないようだ



しかし治療が始まると彼女は目を開いて驚いた顔をし「先程と違うのは何故か」と問う


ヘレンには彼女の気分を害することのないように丁重に扱うよう伝えたはずだが一体何をしたというのだ


聞けば治療に乗じて魔法鑑定を行おうとした事を告げられた


許可なく魔法鑑定をされそうになったことに忌避感を覚えた?

しかしあれはそう簡単に気付く物なのか?

あれは使った術者よりすぐれた鑑定技術を持っていなければ気付くことはないはずだが


やはり私を吹き飛ばした事といい、相当な魔法技術を持っているのは間違いないようだ


我々王族は本来簡単に魔法で害される事のないように強力な防御魔法を常に身に纏っている

それにもかかわらずあのような…今思い出しても屈辱だ


頭を使うことが多い兄上達ならまだしも、兄上達を御守りできるよう剣を磨いている私が受け身さえも取れず一瞬で吹き飛ばされるなど。傷ついた女を警戒していなかったからと自分に言い訳はしたくない



とりあえずヘレンが意図的に害そうとしたわけでない事が分かりホッとした


治療も終わったことだし今度は彼女の話を聞こうとすれば、床に出来てしまった血痕の掃除を先にしたいと彼女は申し出る


するとなんと兄上は突然魔法の絨毯などと言い出した


なんだ魔法の絨毯とは。そんなもの存在すればメイド達の仕事はグッと減ることだろう


そんな技術が服や自身に施すことが出来れば面倒な風呂などに時間を取られることもない。剣術に力を入れながらも王族として身なりを気にしなければならない私にとっても夢のような技術だ


しかし彼女はそんな兄上の冗談を全く疑うことをせず、嬉しそうに絨毯に手をかざし「綺麗になれ」と口にした


だが結果は兄上の言う通り絨毯は綺麗になり、血の跡どころか部屋全体が綺麗になってしまった


よもや私の知らぬ間にそのような技術が出来上がっていたというのか!?と兄上の顔を盗み見れば分かりにくいながらも一瞬驚いたような顔を見せたのを見逃さなかった


つまり私の思ったように兄にしては珍しい冗談だったが、この子は本当にやってのけてしまったということか?


絨毯が綺麗になった事を喜んでいた彼女が思案している間に静かになり、様子を見れば今度は胸を抑えて呼吸が浅く早くなり過呼吸を起こしかけている


今度はなんだ。魔力の枯渇ともまた様子が違うような気がするが、また吹き飛ばされては敵わないとすぐさま落ち着かせるよう傍に寄って優しく背中を撫でた


一瞬体をビクつかせた為“余計なことをしたか?”と思ったが、今度は拒絶の言葉が出ることはなく安堵した


何事かと聞けば、どうも自身の事が何も分からないらしい。こんな10歳くらいの子どもが…年齢の割に髪は短いが、綺麗な手や肌・言葉遣い等からそれなりのきちんとした育ちであるだろうに


この国で7歳を迎えた子であれば鑑定玉ですぐに素性が分かるだろうが、この髪色や瞳は他国の者である可能性が高い


予測で適当な慰めを言う訳にもいかないので彼女が落ち着くまで撫で続けた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る