第6話 きみは幸せでしたか?

火葬の日、君の小さな体は白い灰になった。

あんなに柔らかかった毛も、温かかった体も、全部なくなった。


骨壺を抱いたとき、あまりにも軽くて、何も入っていないように思えた。

君を抱きしめたあの温もりも、重みも、ここにはない。


君がいた部屋に戻ると、そこにはケージがそのまま残っていた。

扉を開けても、もう君は出てこない。

砂浴びの容器を見ても、もう誰も転がらない。


ケージの中に、ふわりとした毛が一本落ちていた。

思わず拾い上げ、手のひらに乗せた。


──君が、ここにいた証。


でも、それを見つめても、どうしようもなかった。

胸の奥に、ぽっかりと穴が開いたままだった。


もっと上手く薬を飲ませていたら。

病院に行くタイミングが違っていたら。


考えても、答えは出ない。

君がいなくなってしまった事実だけが、ただ残る。


もし、もう一度会えたら、伝えたいことがある。


「お前といてよかった」


そして、君に聞きたい。


「幸せだったか?」


その問いに答えが返ってくることはない。

でも、それでも、ずっと問い続けるだろう。

君の毛の感触も、君の温もりも、決して忘れない。


「またな……」


そう呟くと、静かな部屋の中で、微かに君の足音が聞こえたような気がした。

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ありがとう、ごめんね ●なべちん● @tasi507

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