現実
頭は痛いし、腹が痛いし、気持ちも悪い。
遠藤は机に突っ伏しながらため息をつく。
あのロケ以降、夢見が悪い。
そのせいか体調が芳しくなかった。
どうしても抜けられない仕事が続いており、薬で騙し騙しやっていた。
しかし、日に日に症状は重くなるようだった。
そろそろ病院に行かないと、まずいことになるかもしれない。
あの日飲んだ水が、良くなかった可能性がある。
「ウワ、遠藤ちゃん、顔色めっちゃ悪いよ。」
顔を上げると、マネージャーの工藤と目があった。
工藤は目敏く、勘が鋭い、そして優しい。
そんな彼がわざわざ指摘するほど、自分はひどい顔をしているらしい。
今日は久々に、成田と集まっての撮影だった。
あのロケからは一週間近くが経過していた。
「最近変な夢を見るんだよね。それも毎日。」
「へえ、どんな夢?」
「すごく暗い場所にいて、身体が動かなくて、隣に誰かいるんだよ。
俺はなぜか成田がいると思って、名前を呼ぼうとする。
でも、声も出なくて、途中で気づく。
隣にいるのは成田じゃなくて
「女の人だった」」
声が被った。
ギョッとして振り向くと、楽屋の入り口で立ち尽くす成田がいた。
クマがひどく、顔色が悪い。
血色が無いを通り越して、青白い顔をしていた。
「俺も、その夢、見てるかも。」
「…成田も?」
「ちょっと、遠藤、きて。」
成田に招かれるまま、楽屋の外へ飛び出した。滅多に人の来ない非常階段まで移動すると、彼氏は踊り場に腰掛けた。
「俺さ、遠藤が言ってたのと、全く同じ夢見てるんだけど。」
「偶然だとは思うけど、怖いね。」
「しかも、具合悪いし。」
偶然と片付けて、いいのだろうか。
呪い?と言いかけて、やっぱり口を閉じた。
確証無しにネガティブなことは言わない方がいいだろう。
「一応、病院行ったんだよね。」
「井戸の水飲んだって言ったの?」
「いや、そこは誤魔化したけど、変なもの食べたかもしれませんとは言ったよ。
結局、異常無しだったんだけど。精神的なものかもしれませんねって言われちゃった。」
「異常がないのは良かったけど…
なんで正直に言わなかったの?井戸の水飲みましたって。」
成田は後ろめたそうな顔で口を開いた。
「チエさんがさ、井戸の水飲んだって言わない方がいいですよって言ってきたんだよ。
ほら、阿川がスタッフさんと話してていなかったとき!
何でですかって聞いたら、怖いことが起きるからって…。それで俺、なんか、嫌だなと思って。
遠藤にも伝えといてって言われたのにすっかり忘れてたなー。」
「うわー、それは怖い。
お祓いにでも行く?気が紛れるかも。」
きっと、変な水を飲んでしまったという不信感のせいで、気持ちが落ち込んでいるのだろう。悪夢を見るのも、そのせいだ。
この体調の悪さが精神的な理由によるものならば、形ばかりのお祓いでも効果はあるかもしれない。
「そうすっか!遠藤に話したらスッキリした!ありがとね!」
空元気だろうが、成田がやけに明るくそう叫んだ。彼の切り替えの早さは、流石と言ったところだろう。
そんな彼の姿を見ていると、自分も救われた。
二人仲良く楽屋に戻ると、撮影の準備はかなり進んでいるようだった。
「おかえり、何話してたの?」
工藤が眠たそうに言った。
心配してくれていたのかもしれない。
そういえば、彼との会話は尻切れトンボで終わっていた。
「いや、ちょっと、ロケのこと。」
「ロケって、あの超能力の?
聞きたい。どんなんだったの?
あの日、俺いけなかったからさ…」
工藤が興味ありげに尋ねた。
不気味だが面白い経験ではあるだろう。
さて事の顛末を話そうかと口を開いた。
その瞬間だった。
グワングワンと目の前が揺れた。
地震かと思ったが、すぐに目眩だと気づいた。立っていられなくて思わず座り込む、ピキーーーーーっと耳鳴りがして、脳が鷲掴みされたかのように強く痛んだ。
床に赤いものが広がる。
鼻に手をやると、生温かくぬるぬるとしていた。鼻血だ。
頭が痛い。
割れそうに痛い。
「遠藤ちゃん!成田!おい!」
隣を見ると、成田も同じように頭を抱えて苦しんでいた。
「…ま、っ…さ」
夢の中と同じように、声が出ない。
段々と身体が痺れたように動かなくなる。
頭が重い、痛い、冷たい
意識を失うその前に、例の女の顔が、視界の隅をよぎった。
雷鳴 道谷 @garuhiyo
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