発端

ことの発端は2ヶ月前に遡る。

自分達の冠番組で、超能力者特集をやることが決まった。


遠藤と成田は「las」という、今をときめく大人気アイドルユニットである。


大きな瞳の甘いマスク、高身長かつT大卒という超高学歴の遠藤雄太。大のオタクでありながらプロ顔負けのアクロバット技術を持つ成田洸。

小さい事務所出身の若手アイドルながら、二人の人気は確かなものであった。


CDを発売すれば予約が殺到し、雑誌に出れば売り切れ続出、CMをやれば商品を求めるファンでサーバーがダウンする。

そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのlasは、デビューしてわずか2年で自身の冠番組を持つに至った。

昼時の番組にしては視聴率も高く、いつでも冷静な遠藤と明るく元気な成田の掛け合いが微笑ましいと視聴者からの評判も上々だった。

ゴールデン進出と更なる視聴者獲得に向け、毎度斬新な企画が実施されている。


今回は夏場の放送ということで、オカルトをテーマとした企画が組まれたらしい。

プロデューサーから発表されたメイン企画は、矢上千佐子の謎に迫る、というものだった。


「矢上千佐子って、誰ですか?」


会議では誰ともなくそんな疑問があがった。

隠れオカルトマニアだというプロデューサー細田は、ホワイトボードを前に嬉々として説明を始める。


__矢上千佐子は、日本最古の超能力者である。

明治初期の生まれということもあり、信憑性のある資料は少ないものの、透視や念写を何度も成功させ、当時は新聞に載るほどの有名人だったらしい。

オカルトマニアの間で知らないものはいない。細田 は興奮した面持ちでそう締めくくった。


「しかもよ、お孫さん?ひ孫さん?ひひ孫さわ?わかんないけどさ、これまで取材NGを貫いてたんだよ。なのにダメ元で取材依頼出したらまさかのOK!

もしかしたらlasのファンなのかもね。」


「えー、本当ですか?そうなら嬉しいっすけどね。」


「そうだと思うよ。だってご指名がはいったもん。遠藤ちゃんと成田なら取材受けても良いってさ。」


皆の視線は自然と二人に集まった。

思わぬご指名に遠藤と成田の背筋もピンと伸びる。無名の新人を経験した身からすると、名指しで仕事を貰えるのは嬉しかった。


「番組の成功は二人にかかってるからね!」


「はい!やりますやります!頑張ります!」


成田の大きな返事に周囲は笑った。


「遠藤ちゃん、成田の手綱しっかり握っとけよ。」

「おい!俺はペットか何かか!」

「四捨五入したら犬ですよね。」

「ちょっと遠藤までやめてよ!」


いつでも煩い成田と、一歩引きつつも的確なツッコミを入れる遠藤。二人は自他共に認める名コンビである。


二人のやる気溢れる返事に細田はいたく満足したらしい。

そこからはトントン拍子に話が進み、ロケ日はあっという間にやってきた。


目的地は都心から車で3時間ほど。

車窓に映る景色は、コンクリビルの灰色から緑に段々と変化していった。どこまでも広がる田園風景と、ぽつねんと存在するシャッター街を尻目に作間が呟いた。


「遠藤ー!!超能力ってマジであんのかな?」


「どうだろう。信じきれない部分はあるよ。

今から取材に行く身分で失礼かもしれないけど、目の当たりにしたことないからな。」


「そっかー!超能力があるなら欲しいけどね。そういう漫画めっちゃ読んでたし。

ジョジョとか大好きだったなー。」


「成田はどんな能力が欲しい?」


「俺は、動物と話せるようになりてえな!」


「お前は動物好きだしな。」


「遠藤は?」


「俺は……俺は、なんだろう。

いらないかもな。能力なんて無くても、幸せだし。」


「現実主義!リアリズム!」


「それは意味が少し違うけどね。」


遠藤は、矢上千佐子の情報を思い出していた。彼女は、周囲から懐疑の目を向けられながらも、何度も超能力を披露していたという。


観衆に囲まれながら、鉄の箱に入った手紙の内容をピタリと当てたり、3日後の祖母の死を見事予言したこともあるらしい。

千里眼があったとか、人を操っていたとか、眉唾ものの噂も数え切れない。


それほどの力を抱えながらも、彼女の人生は壮絶だった。

実父からは虐待され、親族にも味方はおらず奴隷のようにこき使われていた。新聞で取り上げてからは、インチキだと罵詈雑言を浴びられることも多かったという。


不幸な女性だったのだ。

きっと。





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