その2 暗闇でもがく
気づくと目の前が真っ暗で、それは僕の後ろも上も足元もすべてが真っ暗で。
下手をすると目を開けているのかさえ曖昧だが、そっと自分の指で顔に触れれば目は開いていた。
だけど、真っ暗だ。こういうのを何と言うのだろう……闇?
どこもかしこも真っ暗闇で、それは無限とも感じる。
なのに。
僕は身動きが取れなくて。なんとか体を動かそうともがくのだけれど、一ミリも動かない。
息苦しい。どんどんそれは強くなっていって、喉を掻きむしりたくなるほどに。
どういうことなんだろう。
果てなどないような闇の中にいるのに、僕だけがとても窮屈で息も絶え絶えで何も見えない。
一人ぼっちの闇は僕の心を締め付けて。
闇に溶けてしまうのだろうか。
僕は僕でありたいのに。
何かに、誰かに溶けてしまうのは嫌なのだ。
「…………」
目が、開いた。
けど。
「お前、大丈夫?」
頭のすぐ上から声がする。
「こうすけ……?」
「お前、すっげぇうんうん唸ってたぞ。悪い夢でも見てたのか?」
「………………悪い、夢……だと?」
覚醒した僕はありったけの力で手と足を伸ばして康介の体をベッドの端へ押しやった。
「うおっ」
薄い壁がどおんと鈍く鳴る。
腹を蹴らなかっただけありがたく思え。
窮屈で当たり前だ。息苦しくて当たり前だ。真っ暗闇で当たり前だ。
「勝手にベッドに入ってくるな! お前は僕を締め上げてあの世へ連れて行く気か!!」
怒りに任せて怒鳴る。
僕は康介の腕と足に体を拘束されていたのだ。睡眠は大事だと何度言わせたらわかるんだ。
「んなことあるか! なんでもっとロマンチックに表現できないんだ。俺の胸に抱きしめられてたと言え、バカ!」
「あれのどこが!?」
抱きしめられていた? 何を馬鹿な。僕は夢か現かわからないほど苦しかったのに。
「千尋くんさあ、もっと快楽に貪欲になろうぜ。俺はあの世じゃない天国にお前を連れて行ってやりたいよ」
「わけのわからんこと言ってないでさっさと自分のベッドへ戻れ。僕はまだ寝る」
何時かと枕もとのスマホを見れば四時だった。
学生寮の据え付けのベッドなんて狭いのだ。男二人が寝られる広さはない。それなのに。
「へいへい」
康介は歩いて十歩もない自分のベッドへ戻っていった。
僕で練習したこの抱きしめ?は想い人に理解してもらえるのだろうかと思わないでもないが僕には関係ない。
ので、あと二時間しっかり眠ろうと目を閉じた。
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