十六節『最終準備3』
「おーい、起きろー」
「むう」
「早く起きろつってんだろ! 遅刻してえのか!」
白亜の迫力のある低い声が部屋を揺らす。いつもの風景だ。
「なんか変な夢見た気がする」
「はあ? 何言ってんだ。てか昨日、ちゃんとレポート出せたんだろうな?」
レポート遅れそうになったの誰のせいだと思いながら夜のことを思い出す。
ええと、確かもう学校には行けないと思って、この寮近くの学校関係者、元学校長の家(小屋)に行って……
「ああ!!」
「——んだよ急に?!」
昨日の衝撃を思い出し白亜に勢い込んで疑問を投げかける。昨日は雰囲気に押されて大きな反応を見せることができなかったがよくよく考えたらかなりすごいことなはずだ。
「お前ってさ……おじいちゃんいたりする?」
「そりゃあ誰にだっていんだろ」
「いやえっと、なんかすごいおじいちゃんとか」
「んん、あーそういえば俺の母方の爺さんがこの学校の元学校長だったような」
「——やっぱり、そうだよな」
「でそれが何なんだよ?」
「その先代学校長が学校長になるまで何してたか知ってるか?」
「さあ?」
全くこいつは。家族のこともろくに知らない。そう思い慈愛に満ちた目で白亜に教える。
「あのな、その方は学校長になるまではな、唯一第三大陸にたどり着き、生きて帰ってきた伝説の近衛騎士だったんだぞ!」
「ちょーっと待った、近衛騎士ってなんだ? あと第三大陸ってどこだ?? 順を追って説明しろ」
無知。これ以上のしっくりくる言葉はない。
「はあ~。まず近衛騎士。これは第五種近衛兵またの名を〈彩色近衛兵〉と呼ばれる集団の中でも実力や才能を認められたものだけがなることができる特別な兵士だ。この世界に十人くらいしかいない超エリートってわけ。ここまでわかったか無知助?」
「はいはい。で? 第三大陸ってのは?」
「まず! 俺らがいんのはどこかわかるか?」
「えーと、第……一?」
無知助には期待していないので勝手に話を進める。
「第二大陸のサンスベリア訓練生学校、そして大半の人間の出身地である第一大陸。この二つの大陸と時空の歪? とやらで隔絶されてんのが第三。ここはな、チョー危なくておまえのおじいちゃん以外は生きて帰ってきた人がいないの」
「まじか! おれのじいちゃんすげえ!」
「……」
この程度の一般常識も知らないのにどうやってこの学校の入学試験通ったんだ?
「ま、時空の何やらは俺自身もよくわかってないから人のこと言えないんだけど……」
「てっ——もうこんな時間じゃねえか! お前が自慢気に長話するから!!」
「ちっ! 釈然としないな。せっかく善意で教えてやって——ってまじ時間ねえ!」
「だから言ってんだろ! 行くぞ!」
※
あの後、学校に遅れたことには触れないでおこう。そんなことより先の話だ。今日あった筆記試験については無事に全員合格だった。(約一名危なっかしいのがいたのは言わずもがな)
だがその次にある実技が問題だな。白亜はここでは何ら問題はない。あいつは体も強いし魔法の方もそこそこだ。
ミクリアは防御力皆無の代わりに森の中では無双の魔法使いだ。森の中でなくともそこそこに強い。
ララも平均値がすべての項目において高い。いわば万能型だ。
一方の僕。魔法はまあまあ。身体能力もまあまあ。しいて言え銃器の扱いが他よりもうまいくらい。でもそれも頭半分ぐらい抜けているかどうかといったところだ。
そんな不安感が顔に出ていたのか隣で授業を受けていたミクリアが心配そうに声をかけてきた。
「レ、レナグ。さっきから、顔色が悪い。大丈夫?」
「ああ。ごめんごめん。ちょっと考え事してて」
「もしかしなくても、今日の実技試験の事?」
「むう、ばれてたか」
「実技、あんまりだからね」
「結構ぐっさと心を刺してんのわかってる??」
「ふふ、大丈夫だと思うな」
「全く、何を根拠にそんなことを」
「だって、レナグ……、……頭が回るから」
「でもそれができたって実戦じゃ役立たずじゃないか?」
「だから、大丈夫。僕たち四人で小隊だよ」
「……——。確かにな」
「ま、まったく、何のために、僕たちを誘ったの?」
「わかったって。そうだな。じゃあ思いっきり頼らせていただきます」
「———。ま、任せて……く、くれたまえ」
「フン。なんで急に上からなんだ」
「なんでも、いいでしょ。それよりも授業に集中」
「はいはい」
今までの心配がどこかへ行ってしまったわけでは無いが、少しだけ自信をもらえた。そんな小さな会話だった。
よし今日の放課後は頑張りますか。
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