十七節『最終準備4~実技~』
まずい、おなか痛い。
「小心者を擬人化したみたいになってんぞ」
「この場合においては否定しない。しないけど友達としてどうなんだそれ? 励ましの言葉があってもいいんじゃないのかよ?」
薄情な奴もいたものだ。こいつがほんとにあの伝説的な英雄の孫なのか? 甚だ疑問だ。才能は受け継いでいるっぽいが、人格で褒められるところが少なすぎる。
「失礼なことを考えてんのはわかった。それよりもう予習は出来てんだろうな?」
勘もいいやつだ。しかし、白亜から予習うんぬんの話が出てくるとは驚きだ。と言うか多分こいつも緊張しているな。
「なんだ、おまえも緊張してるのか」
「こいつ。分かったような口ききやがって」
「感情ってのはな、無意識のうちに外に出てるもんなんだよ」
そういうと白亜はハハハと笑ってから、『そうかもな』とだけ言った。
しばらく沈黙があった後に、二つの声がそれを断ち切った。
「おっ、来た来た」
ミクリアとララが来た。僕たちもだが、今来た二人もいつもの制服ではない。礼服とも違う。戦闘用に調整された、まあ言ってしまえばこの学校の体操着だ。ただその性能は段違いで、防御性能もよくさらには軽いというものだ。ある程度の耐火、防水、そして遮光性もある。遮光は『色』の能力対策だ。ほとんどの『色』の能力は光を介して発動する。なのでその光が体に届かないように遮光性の素材を使っている、ってどこかで聞いた。
「相変わらずきついよねこの服」
そう言いながら苦しそうに首元を引っ張っているのはララだ。
「息、できない。苦しい」
このメンツで大丈夫なのだろ言うか。今更だがそんな心配をしながら先生の到着を待つ。そういえば誰が試験監督をするのだろうか。通常ならアンセントワート先生が実技も筆記も担当するのだが僕たちは四年生ではないし、通常の試験でもない。
「なあ、この試験って誰が——」
と、そう聞こうとしたがみんなの視線が一つの方向に向かっていることに気づき口を止めた。そこには小さくて、優し気な、そして計り知れない実力と風格をまとった老人が立っていた。
「あれ、じいちゃんなんでいんの?」
「——そのような気の抜けた挨拶とは、無知とは時に恐ろしいものだね」
いつの間にか老英雄の隣に立っていたアンセントワート先生がそう言う。
「え? いや、ちょ、ちょっと待って」
「うん、待ってほしい」
この二人組は状況を理解できていないよう。何はともあれ人は揃ったようだ。
伝説の近衛騎士こと唯一の帰還者こと白亜のおじいちゃんこと薄雪イカリさんが話始める
「さて、皆々様方。まずは吾輩の自己紹介をさせていただきましょうかの。姓を薄雪、名をイカリ、と申しますじゃ。この度君たちの仮進級適正試、実技の験試験監督を務めさせていただくものじゃ」
「い、イカリ、様? ってもしかして有名な英雄で近衛騎士だったりしますか?」
「いかにも。昔の呼び名がいいのならば〈刀狂〉などでも構いませぬぞ」
「あ、その、本物ですか? ってよりも姓、なんて言いました?」
「薄雪じゃよ」
「えーっと、てことは白亜の親族ってこと?」
白亜とイカリさんの顔を行き来しながらおどおどする。
「そうだぞ。すごいだろ」
「じゃねえよ。お前はなもう少し世界ってものを知った方がいい」
「一昨日も言ったけどその人は全教科の教科書に載るレベルの偉人なんだよ!」
「わかったって。けど俺にとってはまじでただの 爺さんなんだよ」
「ほっほっほ。若いとはいいことですな。活気があって。のう? ワート?」
「私は、あまり好みませんな。まるで昔の私たちのようで……」
「あのう、感傷に浸っているのか? 珍しいこともあるのもじゃ」
「お止めください」
と、そう苦笑いしながらワートと呼ばれたその人は言う。
まさかあのアンセントワート先生に愛称があったとは。しかもイカリさんと親し気だぞ?
「少し時間をかけすぎたの。本題に戻ろう。今から君たちには実技試験を受けてもらう。内容は簡単じゃ」
「と言いますと?」
そしてイカリさんは聞くのを待っていたとばかりに満面の笑みを浮かべてこう言った。
「吾輩とこのアンセントワートから一時間逃げ続けることじゃ」
まじか……
『自分色!』~この普段おとなしい性格で常識人、ただし少し訳ありな僕はこの学校を卒業できるのだろうか~ しらすおろしぽんず @shirasuoroshiponzu
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