雨宿りだと言われ、フラップに案内されたのは、トンネルの入口付近にあった小さな一軒家。


建物自体はシンプルでオシャレな外観だが、花壇の花は、皆大きく華やかだった。




「俺だ、フラップだ。」



フラップが玄関先で大声をあげると、奥の部屋から出てきた老爺が、こちらに手招きをした。



「フラップさん、私もお邪魔して大丈夫なんですか?」



「大丈夫。トワさんも一緒に居ることは今気がついていたからね。」



「あ、じゃあ、お邪魔します…。」



先程老爺が顔を出していた部屋の扉をフラップが開けると、そこは思わず2度見してしまうほど奇抜な部屋だった。

…玄関前にあった花壇の様子に、思わず納得してしまった。



「やあフラップに、お嬢さん。いらっしゃい。ゆっくりしていきなさい。」


老爺は大きめのソファに腰掛け、ラジオのようなものを聞いていた。


部屋一面には、カラフルな絵画や、もはや何かも分からない物がたくさん飾られている。


部屋の隅の中央付近には大きな暖炉もあった。

暖炉だけは飾る気は無かったのか、それが逆に、この部屋には質素すぎるように見えて仕方がない。



「雨足が強まってきたから、少し雨宿りさせて欲しい。」



「ほっほっほ。君たちの好きに使いなさい。……ところで、そこのお嬢さん。」



ノエルが掛けている老眼鏡のチェーンが揺れ、こちらを向いた。


暖炉の薪が弾ける音だけが聞こえた。





「君は…フラップに連れてこられたんだね。また無理やり。」



「ま、まあ、はい。」



私が返答に困っていると、ノエルは途端に大きな声で笑い始めた。

老人特有、と言って良いのかは分からないが、貫禄のある笑い方だ。



「フラップよ。君の強引さは、ワイズにそっくりだね。」



「ノエルさん…兄さんの話は…」



「おおっと済まなかった。ここでする話じゃないのお。……さてお嬢さん、そういえば君の名前を聞いていなかったの。ワシはノエル。ノエルとでも、ノエル爺さんとでも、クソジジイとでも何とでも呼ぶがいい。ほっほっほ。」



「トワと申します。…ノエル、、お爺さん。お邪魔させていただいてありがとうございます。」



「ほっほっほ。トワ君かね。良い名前を貰ったのお。…それで、フラップとはどこまで進んだんじゃい?」



「……は、はい?」



「ノエルさん、俺とトワさんは友人だ。勘違いしないで欲しい。」



フラップがノエルにそう言った。


いつから友人になったのだろうかと疑問に思ったが、フラップが友人というのも悪くない気がした。


心の許せる友人が居ない私には、たとえ妖精だって良い。友達と呼べる存在が欲しかった。


…だから、彼にそう呼ばれるのは、少し嬉しかった。



「ほっほっほ。それは失礼した。…そろそろ紅茶を淹れようかの。フラップ。杖を取ってくれ。」



「ノエルさん、日頃から近くに置いておかないとダメだよ。一人暮らしの老爺なんて危険がたくさんなんだから。」



「すまんの。これが、ワシのプライドっちゅうもんじゃ。若い頃からそうじゃった。ほっほっほ。」



それから、2人と何気ない雑談を交わしていると、凝り固まった心が解れていくようにリラックスすることが出来た。


…こんなに安心した気持ちになったのは、いつぶりだろうか。



まだ独り立ちをしていなかった頃、毎日家族で食卓を囲んでいた。

何気ない雑談や、くだらないトークをしながら食べるご飯は、この世の何よりも美味しかった。


その感覚に、少し似ている。


家族と一緒にいる時間のような。そんな感覚。


…そして、ほんの少しだけだけれど、私の心に小さな火が灯ったような気がした。




…そして、やがて雨は止み、曇りがかった灰色の空から、一筋の光が差し込んだ。

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妖精の国 ぷっぷ @bunkeinomoyashi

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