第6話この世界

子供の頃から、ずっと理不尽だなと思う、この世界は。

何をしても怒られる日々。

いつだって、弱者には何も与えられない。

強いものがすることには、誰だって目を瞑る。

小学校に入る頃には、家事を1人でやってたし、先生にも心配されたけど、それが当たり前だと思っていた僕は、それすらも不思議に思っていた。

おかしいことに気がついたのは、高学年になった頃。

いじめが始まってからだった。

日々浴びせられる罵詈雑言の数とバレないようにこそこそ殴られ続けて、いじめっ子の1人に言われて、初めて僕の家がおかしいことに気が付かされた。

家に帰っても、喋る人もいない。

先生には心配かけたくない。

ただ耐え続けた。

誰にも言わずに…。

中学に入って、違う学校の子と同じになってから、いじめの対象は変わった。

正直どうでも良かった。

高校を卒業して、教育学部のある大学に行った。

しかし、大学の金は親は金を出してくれなくなった。

自分で稼いだ。

バイトをしながら勉強もして。

そんなある日、ネグレクト状態にある子供が増えているという事実を知った。

僕と同じような子が今はたくさんいるということ。

僕はそこからは、保育士を目指した。

大学を卒業後、資格をとり、仕事に励んだ。

そんな中、1人の女の子を見つけた。

いじめられていた5歳の女の子。

驚いた。

この年でいじめがあることに、親の教育に。

そして、それを無視しているその子の親に、

決心した僕は、警察に行きその女の子を引き取った。

そこからは、大変だった。

保育園で子供を見るのと、家で子供を見ることは、大いに違った。

仕事をしながら子供の面倒を見ることの大変さを初めて知った。

シングルファザーということもあり協力ができないことの辛さも。

さらにそこに、娘が病気という事実を突きつけられた。

そして痛感した。

自分の無力さを、不甲斐なさを。

その子が亡くなった。

打つ手がなくなって医者に好きにしなさい、って言われた時あの子は何を考えていたのだろう。

そして娘が死んだ。

その後はのらりくらり、いろんなところを転々としていた。

いろんな高校や保育園を回っているうちに、だんだん自分のしたかったことを忘れかけていた。

そんな中ある高校で出来事。

屋上から飛び降り自殺をしようとした生徒がいた。

その瞬間をたまたまみていた。

その場にいた生徒が1人、そのことに気づいて止めた。

その姿が、亡き娘と重なった。

急いで屋上に向かった。

大事にはならなかったが、自殺しようとしていた子は、保健室登校や健やか教室などを使った学校に通っていた。

その後、たまに死のうとしていた生徒のところに行っては、話し相手になっていた。

ある日花の話をしたことがあったな。

しばらくしたくらい。

立ち入り禁止となった屋上に、あの生徒の姿が見えた。

娘を思い重ねてしまった、あの生徒を。

僕は黙認することにした。

なぜかはわからない。

その子達も卒業した。

四年後風の噂で、あの時自殺を止めた生徒と一緒にいた生徒が結婚した、という話を聞いた。

さらに四年後、ある町の学校の教師をやっていた時。

町の花屋さんで懐かしい顔を見た。

もうこの街も離れる。

そうだ、次は娘と出会ったあの街に行こう。

懐かしの保育園。

あの高校。

自分の生まれ育った町よりも、思い出深い。

街を歩いていたら、声をかけられることもあった。

教師をしていて良かった、そう思わせてくれる。

1人の見覚えのある顔がいた。何か急いでるような感じだったが少し声をかけてみた。

どうやら僕のことは覚えていないようだった。

今までの人生を振り返ると、もっと子供たちのために何かできたのではないか、そう思ってしまう。

そろそろこの世とおもお別れのようだ。

どうやら娘と同じ病気になってしまったらしい。

まだ死にたくない。

そう思ってしまう。

娘もそう思っていたのだろうか。

そう思いながら懐かしの街をただ歩いていた。

『ドッ!』足に何かぶつかる音がした。

「ご…ごめんなさい。」

小さい子供だった。

「大丈夫か?こんな時間に1人でどうしたんだ?」

手を差し伸べながら聞いた。

男の子は、差し出されたてを掴んでゆっくり立ち上がった。

「お母さんにおこられて…泣いて走ってたらいつの間にかここにいたの…。

ねぇ。ぼくわるい子なの?お母さんにおこられたらわるい子って友達がいってたの。」

目に涙を浮かべながら聞く男の子に、

「確かに、悪いことをしたらお母さんに怒られる。けどお母さんに怒られたからと言って悪い子にはならないよ。

ちゃんとなんで怒られたのか、これからどうしたらいいのか、考えてご覧?

そして、お母さんにちゃんと謝るんだ。

それができたら悪い子じゃないよ。」

「うん!わかった!」話を聞いた男の子は、少し目をキラキラさせていた。

「すみませ〜ん。男の子見ませんでした〜?」

男の子のお母さんらしき人が、声を出しながら走ってきた。

「男の子ならここにいますよ〜!ほらいっといで。」

「おかーさん!ごめんなさい!」

走りながら、ちゃんと謝った。

そういえば子供の頃怒られたことすらなかったな。

今この街に昔の私と同じ顔をしている子供は居なかった。

それだけでも十分かな。そう思い再び足を進めた。

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