月影に溶けた夜

香月茉梨

月影に溶けた夜

触れたのは、ほんの気まぐれだったのかもしれない。

寂しさが募って、心が揺らいで、あなたの温もりにすがるように手を伸ばした。夜の静けさが全てを許してくれる気がして、私は深くあなたに溶けていった。理性なんて、もうとうに手放していた。

けれど、朝が来ると全てが違って見えた。

隣にいるはずのあなたの背中が、やけに遠い。沈黙が重くて、息が詰まりそうだった。「おはよう」と声をかける勇気すらない。

これは、間違いだったのか?

それとも、ほんのひとときでも心が通じた証だったのか?

答えは出ないまま、わたしはそっと布団を抜け出す。冷たい床の感触が、現実へと引き戻すようだった。扉を開けると、夜の余韻も

あなたの温もりも、一瞬でかき消されていく。 

それでも、振り返ることはできなかった。

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月影に溶けた夜 香月茉梨 @kozukimari2005

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