11.一方通行 -2-

 彼の車を見送り、マチは自分のバイクを呼び自宅へ戻った。

 自宅に帰るとPCを立ち上げ、タイジ宛てのメッセージを入力し、送信ボタンを押すところで一度手を止めたが、そっと送信ボタンを押し、彼と連絡が取れる方法の全て受信拒否にした。

 そのまま静かにPCを落とし、ベッドに入る。

 枕に顔を埋めて、終わったんだ、という冷たい感覚を背中に感じた。

 不貞や不義。浮気。不倫。

 それで破壊され、破滅して壊れるしかない人達を沢山知ってる。

 開き直って溺れて傷ついても同じ道に戻っていく。

 どちらも幸せには見えなかった。

 あのまま一緒に居ても、ただただ不安が大きくなるだけだった。

 彼は楽しそうだった。自分も楽しかった。

 けれど、この気持ちのまま続けたらその内、彼を責めるようになってしまう。

 自分の望みばかりを、彼にぶつけてしまうようになる。

 そんな自分にはなりたくなかった。

 望みをぶつけたとして、彼が去ってしまったら?

 恋人と終わらせる事を乞うのか?

 そうやって力づくで、誰が幸せになれる?

 彼の明るさが失われる。自分もそれがしこりになる。

 笑っていて欲しい。自分が側に居なくても。

 幸せだと感じて生きて行けるなら何でもいい。誰と一緒に居ても。側に居るのが自分じゃなくても。

 そう思った時、昔友人が言った言葉を思い出す。


『幸せにしてもらうんじゃなくて自分が相手を幸せにしてやろうと思うくらいじゃないと』


 その言葉に口を歪めて笑う。

 彼に自分は何を与える事が出来る?

 既に恋人が居る状態で満たされて居る状態の彼に、自分は何が出来た?

 ただ、肉体関係だけだった。

 ハルの言ってる事は正解だ。


『大事ならちゃんとするのが当たり前よ』

 

 その言葉をまざまざと思い出して顔を崩して泣く。

 自分の馬鹿さ加減に笑う。


『ちゃんとしようとする人なら最初からするよ』


 言葉が重く重く広がって、彼女を覆って潰していく。

 そう。

 自分だって都合よく彼に付け込んで利用した。

 彼だって自分を利用したんだ。

 どちらも悪い。どちらかがじゃない。

 どんなに思っていても体を重ねてもダメだった。根っこに損得があり続けていたから。


 何もない時に出会いたかった。

 

 そう思っても終わった事だ。

 私は逃げた。

 別れを告げたのだから、当然彼から何かしてくるはずもない。

 壊れるなら思いだけでも伝えれば、と思わなったわけじゃない。

 受け入れられないと信じていた。

 親にすら粗末に扱われた自分。

 こんな自分の思いを、誰かが受け入れてくれるなんて思えない。

 似た境遇で繋がりが出来たんじゃないかと、錯覚していた。

 ただ女が好きで、いくらでも優しく出来る男は沢山居る。

 彼だってそうだったかもしれない。

 そう彼の不誠実さを責め始めても、自分自身が自分の心のままに思いを言えない不甲斐なさに戻ってしまう。


「かっこわる」


 彼は彼女の事を沢山褒めてくれた。

 けれど自分は自分の気持ちを言葉に出して言う事すら出来ない、傷つくのがただ怖いだけの惨めな人間でしかない。

 そうして自分に自分で暗示をかけて行く。

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