11.一方通行 -1-
あの夜見たホログラムの異常の対応に、マチは3日ほど現地に行ったり天候管理局へ出向いたりと多忙に過ごしていた。
プログラマとエンジニアが何度も調べたがバグもミスも見つからなかった。
太陽からのUV-Cの影響も考えられたが、そうなると大規模な調査が必要となる為、その申請が必要か上司に報告してこの件は一旦保留となり、彼女の製品はそのまま実装となった。
タイジと会ったのはあの夜から4日目の事。
彼女の仕事の後、タイジの夜勤の出勤時間まで会っていた。
夕食を店で食べた後、彼女の調べ物があったので国立図書館に行った。
「こういうとこで良いの?」
「いいよ。見たいのあるし」
マチが蔵書一覧を閲覧し始めたので、タイジは造船建築のコーナーに行く旨を伝えて別れた。
以前、宇宙船コミュニティで話されていた資料を探し、図書館で貸し出されているタブレットに、その情報を入れその場でタブレットの画面に表示される文書を視線で追う。
その時、少し大きな速足の足音が近づいているに気付きそちらを見ると、それは彼を探していたマチだった。
「タイ。これ」
彼女は目をキラキラさせて少し興奮していた。
持って来た蔵書一覧のタブレットを彼に見せる。
彼は覗き込んで彼女が差す新規購入予定書籍の一覧を見た。
『第13次戦中の建築と造船』
「これ…」
「トーレメースの情報無いかな?」
「分からんけど読みたい」
マチからタブレットを受け取り、貸し出し予約申請を入力した。
貸し出しは先着順でタイジで51人目だった。
「待ち人数多くない?」
「それだけ貴重な本だって事」
マチはその本の入庫日を見、一瞬暗い表情をしたがタイジには気付かれなかった。
「そっちの探し物は?」
「あ。まだだった」
タブレットを返してもらい、戻って行こうとした彼女を呼び止め、
「ありがと。すごい嬉しい」
礼を言うと、少し照れながら笑顔を見せて戻って行った。
色んな笑い方をするが、あの表情は初めてで彼は胃の入り口辺りがギュッとした。
図書館で時間を使い過ぎて慌て車へ戻ろうとしたが、駐車場の出口で彼女は立ち止まり、
「時間無いしバイク呼ぶからここで良いよ」
「え?でも」
「うちに寄って戻ると倍時間かかるし。大丈夫」
「分かった。気をつけてな」
「うん」
彼女は車の方に行きかけた彼の名前を呼んで呼び止めた。
立ち止まって振り返った彼に彼女は走り寄ると、つま先立ちをして彼の両頬を両手で挟み唇にキスをした。
一瞬驚いた彼だったが、彼女からこういう事をするのは珍しかったので内心喜んだ。
もう少し時間があればよかった、という思いが体の反応と共に沸き上がる。
一度だけ彼女が舌を差し入れ、なぞるように彼に触れると離れた。
「ちょっとびっくりしたけど。こういうのもいい」
彼女の少し慌てた様な反応が返ってくると思っていたが、マチは一瞬無表情になり、すぐにいつもの少し困ったような笑顔を見せて、
「ありがとうね」
「?なんかあった?」
「ううん」
そう言うとまた彼に近づき頬に頬を着け、しばらくして離れた。
「時間」
「おぅ。またな」
彼は歩き出して一度振り返った。マチは手を振って見送った。
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