10.余計なお世話
彼女が帰宅したのは夜明け前だった。
エレベーターで上がりそっと部屋の鍵を開けて中に入った。
同居人達はまだ眠っている。
と、思っていたが彼女達は居間に居た。服装を見ると外出をしていたことが分かった。
マチは少し驚いて、
「ただいま…」
バツの悪そうな顔で言うと、ハルはちょっと言い澱んだ後、決意し話し出した。
「マチ。今夜も彼と?」
「…うん」
「結構年上の人だよね?」
「うん…」
そこでハルはため息を吐く。もう一人の同居人は黙って2人を見ていた。
「私の言ってる事が違っていたら怒って」
「…」
「恋人じゃないでしょ?」
マチは視線をハルから外せず、少し間を置いて浅く頷いた。
その回答に同居人二人はため息を吐いた。
ずっと黙っていた同居人はそのまま私室に行ってしまった。
その雰囲気から怒っているのは充分マチに伝わった。
「どう言う人?」
「仕事の相談から知り合った人…」
「会うようになって結構経つよね?」
「うん…」
「で、付き合ってないんだ?」
「…」
ハルはマチの沈黙が肯定であると理解していた。
「ちゃんと付き合おうとしない関係がどう言う事になるか、マチ分ってるでしょ?」
「…」
ハルは学生時代からのマチの親友で、彼女が授業の後、生活の為に享楽目的の店で働きそこの人間を見、接する事で傷ついてボロボロになって行ったのを直接知っていた。
元々抱えていた人間や性に対する不信から来る傷が、掻き壊されて行くように傷ついて行っていた。
マチ自身は気付いていないけれど、マチはとても純粋で共感力が強すぎるのだとハルは思っている。
ただ受け流して他人事だとしまえる事ですら、自分の中に入れてしまって傷つく。
夜の仕事を辞めてやっと落ち着き出した。
生活の為の労働だと止めなかった自分が出来る事は、自覚の鈍い彼女が気付けるよう強い言葉を使う事だと思い詰め、ハルはこうして話す事を決めたのだった。
「私の主観だけど、マチが大事ならちゃんとするのが当たり前だよ?」
「…」
マチが目を背け耳を塞いできた言葉をハルは放った。
「ちゃんとしようとする人なら最初からするよ?マチの話聞いてたら全然してないよ。恋人ですらない」
何か言葉を返そうにもマチは何も出せなかった。
「私達は法律的には成人してる。何しようが自分で責任とれるなら自由。けど、それは駄目だよ…」
「…」
マチは下を向いて小さく言った。
「…分かってる」
自室に入ったマチはベッドに倒れ込んで膝を抱えて丸くなった。
ここが潮時なんだろう。
考えてもすぐに端に避けて見ない様にして来た。
ハル達の反応や言葉はただの切っ掛け。
ずっと分かってた。
駄目だって。
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