3.彼女が産まれてからの話

 マチは現在33歳で6年前に死産をしていた。

 38週目で子どもの心拍が止まった為、その翌日誘発剤を使っての出産を行おうとしたが彼女の骨盤が開かず緊急開腹手術となった。

 麻酔の影響で心拍が上がりすぎ意識を失った彼女が目を覚ましたのは手術室ではなく病室で、目覚めた彼女に助産師が子どもに会うかどうかの確認をして来た。

 彼女は保冷剤の敷き詰められたコットに収まった、紫色の肌をした子どもと一晩過ごした。

 夫は退院するまで一度も現れなかった。

 精神状態が不安定になった彼女に対して夫はDV行うようになりそれから離婚し、彼女は都区の外れ、疎区に隣接する地区に引っ越しそこで生活を始め現在に至る。 


 彼女が子どもを出したその日、その産院では死産が3件あった。

 原因は麻酔の副作用。

 極々最近認可が下りた薬剤であったが心拍数増加等の副作用が強く出、翌年回収製造禁止となっていた。

 当時彼女もその麻酔を使用した為、心拍が急激に上がり酸素飽和度が下がり意識を失った。

 意識がはっきりしたのは術後の翌日だった。


 夫は結婚当初から子どもを望んでいない人で、彼女が無卵子月経の体質で子どもが出来にくいと分っていたから結婚をしたようなものだった。

 妊娠中、つわりや上手く動けない体の状態で家事をこなしづらい彼女に対して、

「お前が子ども欲しかったから作ったんだろ」

 と言う言葉を投げかける人だった。

 結婚当初から性生活はほとんど無く、入籍した日だけは、とどちらからともなく避妊をしない行為に及び妊娠した。

 不妊体質である事は彼女が中学生の時に、少子化改善政策として成人前女性に国が義務付けた健康診断で判明していた。

 自分は子どもが出来ないんだ。

 思春期と物心つく前から始まっていた親からの虐待の影響で自暴自棄になった。

 父親が避妊をしない人で、母は何度も中絶を繰り返したまたま産まれた彼女に対して、

「お前も堕すつもりだった」

 と、父は殴り暴言を浴びる度に言った。


「結婚って何?」

「粗末にされるなら要らないじゃん」

「結婚しても命は無駄にされる」

「流れずに子宮にしがみついた自分って生き汚い」


 彼女は17歳で無理やり家を出て奨学金で進学し通学しながら健康を害する働き方をした。

 夜の享楽目的の店のバーテン。薬物と酒類の夜間配達。性風俗店の清掃業。

 人からの紹介される仕事は現行法違反になるもの以外は、何でもした。

 そして彼女自身、成人前に飲酒と喫煙の習慣が身に着いた。

 そう言う世界に出入りをしていると必然と彼女の若さと外見の美しさから誘惑をして来る人間はいたが、彼女は23歳まで処女だった。

 性交渉をする意味が分からなかった。

 抱き合おうが性器を合わせようが、自分の中の穴は埋まらないと分っているのに、体を痛めてまで病気になるリスクを負ってまで時間を消費してまでする意味が分からなかった。


 20歳には過度の疲労と不摂生から、生前遺伝子健診で判明していた慢性疾患因子が発現して、ほぼ一生その進行を止める薬を服用する事になっていた。

 それを機に喫煙と飲酒習慣を辞め働き方を変え、ずっと続けていた気候デザインの仕事だけをするようになった。

 その頃になっても心の奥にあるざわつきも憎悪も消えていなかった。 

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