風に揺れる

由羽

(1)

 慰労会で賑わう店内を横切った1人の男。彼とほんの一瞬視線が交わった。

 記憶の中の彼よりも大人っぽくなった姿。でもあれはだと確信し、その背を追いかける。


 

「煙草なんか吸って、グレたの?」


 

 そう問いかければ、すぐに気づくと思った。私が彼にすぐ気づいたように。

 気怠げに振り返ったその人は私に視線を寄越し、紫煙を吐き出す。しゃらんと、風に揺れるピアスの音がした。

 

  

「趣味の悪いピアスしてんね」


 

 開口一番がそれか、とふっと笑みがもれる。 


 

「うるさいよ、お気に入りなの。てか自分の左耳見てから言ったら?」


「うるせえよ、俺もお気に入りなの」


「……そう」


 

 そう言ったきり、お互い無言になり見つめ合う。何か話そうと思ってたわけじゃない。ただその姿を見たら衝動的に体が動いた。


 

「戻れば?寒いでしょ」


「…そうね、そうするよ。元気そうで良かった」


「元気そう?どこ見てんだか」


「なに「早く行けよ、真面目チャン」



 変わらず吐き出される紫煙。私との話を拒絶する態度。戻れないことは分かっていても、ここまでだとは思わなかった。私の考えが甘かったのだろうか。



世海せかい


「………なに」


「そんなに、私がきらい?憎い?」


「……べつに。寒そって思っただけ」


「じゃあまだ、ここにいていい…?」



 しまった。視界がうるんでる。

 泣くつもりは全くないけど、もし泣いたら目の前の男は嫌そうな顔をすると容易に想像できる。

 返事を待つ私を見つめた男は、煙草を灰皿に押し付けおもむろに自分の上着に手をかける。



「寒いよ、マジで今日は」


「ぇ…?」


「着てて。腕通して」


「世海「ちょっと黙って」




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