ずっと好きだったから…… 理想と現実

久遠 れんり

飲み会

 大学の友人達。

 特に、一華いちかかえでは仲がよく、一年で出会った時から仲良しだった。


 だけど、琉生るいそうに出会ったとき、二人の意見が揃ってしまう悲劇が起こった。


 一華と楓、共に想を好きになった。

 琉生のどこが悪いとか、そう言うのでは無い。

 ただちょっとした物腰、反応の仕方。そして笑顔。

「どっちが告白されても、恨みっこ無し」

 二人でそんな約束をした。


 そして、少しの期間を置いて、想が選んだのは一華だった。


 それで、なんとなく楓と琉生は付き合い始めた。

 そう、悪くない。

 他の人を選ぶよりは、断然良い。


 問題は、気持ち。

 一番じゃ無い。


 そんなモヤモヤを持ち続け、学校生活は続いていく。


 大学二年の後半、皆は二十歳を越え寒いある日、琉生の部屋で鍋をすることになった。


 寄せ鍋のはずだったが、あん餅が入っていたり多少混沌へ。

 妙に甘い雑炊を食べて〆にする。


 そう、どうということはない、普通の鍋パーティ。


「でぇ、もう食えない」

 琉生がそう言って寝転がる。


「すぐに寝ると豚になるわよ」

「ひでえなぁ」

「ひどくないわよ、皆にお腹を見て貰えば」

「ぐっ、そこは秘密だ。深淵を覗く者はさらなる……」

「馬鹿なことを言っていないで、退いて」

「ひでえ」

 琉生は楓に蹴られる。


「鍋だけじゃ足りないといけないから、とり天とかも作ったの。飲みましょ」

 一番最後に二十歳になった一華は、もう真っ赤で酔っ払っている。


 ざっと、コールスローなどのサラダも作る。


 そう、楓は料理が好きで色々と作る。

 それを、美味いといって食べる琉生は少しぽっちゃりになっていた。


「一華は、作らないからすごく新鮮だな」

「作らないわけじゃないじゃ無い」

「そうだな、なぜか焦げたり、味が毒草的なだけだな」

「なんかいま、アクセントがおかしかった」

 そう言って、グビグビ。


 琉生は楓と付き合い出すときに、想が好きだったことを聞いていた。

 それは当然彼としては、おもしろくない。

 だけど、付き合い始めると、お互いに歯に着せない言い合いと共通の趣味。悪くなかった。


 だけど、楓がどう思っているのか、ずっと不安だった。

 だが。三ヶ月、半年、一年。

 そんな事は、気にならなくなっていた。


 楓はその間にも、一華からの愚痴として色々と聞いていた。

 想は男の子っぽい男、甘やかされて育ち、家事はしようとしない。

 そう、イメージは昭和のお父さん。

 琉生は楓に叱れて、その辺りは改善された。


 そう、彼女がいる男がモテるのは、以外とそういう教育があってこそなのだ。


 それは、彼女が好きだから、頑張れる。

 よく女は好きになられて結婚した方が幸せに成れると聞く。

 それは多分に、そういう理由があるのだろう。


 そうして、一華と琉生は寝始める。


「こら、あんたはベッドに行きなさいよ」

「んあ、ああ」

 酔っ払いふらふらしながら、琉生はベッドへ向かう。


「一華は、このソファーベッドにして」

「ああ、判ったどうやるんだ?」

「背もたれを一度引っ張って、こう倒せば。はい」

「すごいな」

 そう言って彼は、一華を簡単に抱えて寝かせてしまう。

 なんとなく羨ましい。


「毛布はこれね。エアコンは切らないからこれで良いでしょ」

「そうだな」

 そう言うと彼は、また一缶出してきた。


「なんか目が覚めた」

「何か作るね」

「何か軽く、ラーメンとか喰いたいな」

「判った」


 きちんと、麺は常備してある。

 焼豚やもやしは冷凍にある。


 すぐに作って出してみる。

 醤油ベースの昔懐かしい系。


 ゆで卵と、カットわかめをのせる。

 ネギを散らして終了。


「うま、スゲ」

「中華スープを、少しだけ焦がしてからお湯を足すのよ」


 なんて、言っていたら、彼も酔い潰れる。

 さすがに、ソファーにあげるのは無理。


 片付けをして、電気を消す。

 でも、足元では彼が寝ている。


 ちょっとだけ、キスくらいなら……

 覆い被さるように、彼の上に、そしてそっと彼に抱きつく。

 そして、念願だったキス……

 ものすごい、背徳感。


「だめだわ、これ」

 そう、罪悪感の方が強い。

 体を起こそうとすると、彼に腕を掴まれる。


 引っ張られて、再び彼の上に……

「ひゃ」

「大丈夫、皆寝ているだろ」

 そう言って、キスをされて……


 体を触られる。

 いつもと違う、そう彼とは違う。


 もどかしい、それに少し乱暴。

 何か違う、こんなの嬉しくない。


 だけど、受け入れる。

 どこまでも、自分本位。

 そうか、一華の愚痴。


「彼はおこちゃまだから、相手のことを見ていないの」

 そうなんだ。

 見た目や雰囲気で好きになったけれど、それだけじゃ無いのね。


 実際、彼は自分が満足すれば、さっさと寝てしまった。


 私は、受け入れたけれど、もう良いと思った。

 残ったのは琉生への罪悪感のみ。


 シャワーを浴びて、ベッドへ潜り込む。

 いつもの匂い、いつもの体温……


 一夜だけの秘密。

「好きよ、琉生」

「酔っ払いか、お前」

「何時から起きていたの?」

 聞いたけれど、彼は答えなかった……

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ずっと好きだったから…… 理想と現実 久遠 れんり @recmiya

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