第8話 そのまま
『今夜会える?』
けんごさんから短いメールだった。
『バー以外なら』
『俺の家くる?』
迷わずはいと返信を送って、定時に切り上げた。副編集長がけんごさんと話をしてから残業は発生してない。
そもそも教えられてない業務をやらされることは減った。
チャイムを鳴らす。入ってとすぐに促された。
「あのあの、いつもお世話になってるのでペットボトルの烏龍茶ですけど、二本買ってきました!」
「ゆうさん、これ二リットルを二本だよ」
「はい、あの、因果関係はよくわかりませんが、火曜から残業が無くなったので」
「じゃあ、ゲーム部屋のソファでゆっくりしよう」
そういってドアを開けるとすでにピザが二枚、皿にのせられて置いてある。
「お寿司を冷蔵庫から持ってくるね。コップも」
「は、はい」
けんごさんが喜んでることは確かだった。
「じゃあ、ゆうさんの残業が無くなったことを祝して乾杯!」
「か、かんぱーい!」
ごくりとぬるい烏龍茶が喉を通る。
「あ、あの。ど、どう言ったらいいかわからないですけど! けんごさん、好きです。キス以外の気持ちいいことってどうやったらできるんですか?」
「うーん、そうだな。砂漠谷出版から出されてるBLコミック全部読むとかどう?」
「もーっ、質問に質問で返さないでくださいよぉ。けんごさんは砂漠谷さんなんですか」
「うん、ごめん黙ってて。そうなんだ、社長の息子やってる」
「けんごは平仮名ですか?」
「あーっ、ちょっと待って、ゆうさん職業病じゃない?」
「はえ?」
「俺、別に平仮名だろうがカタカナだろうが、けんごって合ってれば気にしないよ。ゆうさんは? ほんとは呼ばれたいやつある?」
「僕は友永
「ろいと? どんな漢字? って、あ、俺も聞いちゃってるな。俺は健康の健に
「わぁ、ステキな名前ですね」
「そうか?」
「意図がすぐ伝わるじゃないですか。僕の両親は、誰からも何があっても自分を大事にして欲しいと思って裁判長の黒衣にかけて呂色から名前をつけたそうなんです」
「そのまま変わらない『ろい』でいて」
夕飯は半分ぐらいでキスが始まった。
新年が明けるとけんごさんはますます忙しくなった。それでも金曜の夜からけんごさんの自宅で会った。たまにキス以外もする。
「ゆっくり慣れていこう。ろいのペースに合わせるよ」
けんごさんはそう言うけれど、どこかで疲れているようにも感じた。
バーにはたまにランチタイムだけ行くように戻った。美味しく安いランチが食べられるのは知られている話で、一人客が多く回転の早いランチタイムなら店員に話しかけられることもない。突っ込んだ話を振られるのは学生時代から苦手だった。
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