第6話 理由

「明日の朝は食パンでいい?」

「もちろんです、なんでも食べれます」

 少し焦げたパンに載せられた大きなバターが美味しかった。ごまドレッシングがかかった野菜サラダにコンソメスープ、少量のヨーグルトと切ったばかりのリンゴを口にする。さくと噛むと甘酸っぱい味がした。

「ゆうさんの入浴中にゲームも決めておいたんだ。みてみて」

 ゲームを遊ぶ部屋のテーブルにこれでもかと並んでいるゲームの箱。ナナ、ito、ザ・ゲーム、だるまあつめ、五本のきゅうり、キングドミノ、スプレンダー、クイズ!いいセン行きまSHOW。

「えっ!? こんなに遊ぶつもりなんですか? ルール覚えきれないですよぉ」

「そのときの流れみて決めるよ。候補、候補なだけだから。今日来てくれるゴンさんに『残業続きのやつに無理させるな』って言われてるから。お茶飲んだりお菓子食べたりゆっくり遊ぼ!」

「あ、はい。ワカリマシタ」

「あれ? なんか元気ない?」

「い、いえ。この間は短時間でたくさん遊ばれてたみたいなのに、僕なんかが入って」

「誰でも最初は初心者だから大丈夫。それに前回はバーの常連さんばかりで、俺がまたひっぱたかれてると思って慰めにきたみたいなところあるんだよね。でも、ゆうさんが寝てると知ったら静かに遊べるゲームにしようと言ってくれて、こんな短期間なのにゆうさん愛されてるな、って好きになっ……あ! 十時から午後二時まで遊ぼうかと話してたんだけどそれでいいかな?」

「すみません、けんごさんがいろいろ考えてくれたのに僕気づかなかったです。今日はたくさん楽しみます!」

 それにパジャマの他に普段着っぽい服も用意してくれた。けんごさんのほうが僕より背が高いのに、サイズ感はピッタリだ。


 そうこうしてるうちにゴンさんとくじらさんがいらっしゃって仲良く遊んだ。


「今日、どうだった?」

「楽しかった! この間から気になってたスプレンダーも遊べたし!」

「ほんと? 嬉しい」

 けんごさんはくしゃっとした顔で笑った。バーで寂しさを紛らわせているという話だけど、けんごさんのいろんな表情をみているとバーでも無理をしているんじゃないかと感じる。

 

「けんごさんは自炊派ですか?」

「あはは、ゆうさんは? バーで食べる派?」

「もぉーっ! 質問で返さないでくださいよぉ!」

 ゲームのおかげか、くだけた言い方を好むことやけんごさんの人となりをだいぶ知れたように思う。

 くじらさんからの学生時代のけんごさんが大人しい人だった話やゴンさんが僕に「けんごは人たらしだから気をつけろ」と忠告してきた相手だと初めて認識した。どれだけ残業で疲れて、世界をぼんやりとしか眺めていられなかったんだろうか。


 夕食後、ゲーム部屋のソファでゆっくりした。

「僕、今日もお泊まりしていいですか?」

「嬉しいけど、理由聞いていい?」

「けんごさんと一緒にいるのあたたかくて好きだからです! 幸せな気持ちで熟睡できるし、ご飯は美味しいし、人間関係も広がって一石三鳥ぐらいな気分です!」

「俺もゆうさんといるの好きだよ」

 そういってけんごさんは僕の頬に唇をつけた。

「ん? あれ?」

「好き同士のおやすみの挨拶」

 けんごさんの細めた目がやはりキラキラしていて、僕は吸い込まれるように顔を近づけた。

 それをきっかけに唇同士のキスが始まった。

「……好きってそういう? こと、ですか?」

「ふふっ、ゆうさんよくわかってなさそう。俺とそうなるのは嫌? 将来的に一緒に住みたいなと思ったんだけど」

 落ち着いた声色に、僕が間違ってるのかそうだ好き同士だからなんにも問題はない。

「いえ! けんごさんと一緒に住めたら、生活できたら嬉しいです! よろしくお願いしまぁす!」

 勢いで出してしまった右手にけんごさんのあたたかい右手が僕の手を包む。

「喜んで」

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