第5話 夜の散歩

 どうやら自分が倒れた、いや眠りこけた、んじゃないか。お店を出て、階段を下りる。

「あの、先週僕ってどうだったんですか?」

「急に寝落ち? みたいになっちゃって、俺がタクシー呼んで、まぁその、常連さんも慣れてるから何人かで持ち上げて階段おろして後部座席に放りこんで、その後は一人で自宅まで運んだ」

「本当にありがとうございます。あの、この間、誘ってもらったカードゲームやってみたいんです」

 店員のアドバイス通りに伝えたら、よっしゃとこぶしをあげて僕には笑ってくれた。

「じゃあ、このあと家来ない? 今夜泊まってったら人呼んで、明日は楽しく遊びたい。それに、ゆうさんが居てくれたら寂しさが紛れるから」

「え、ほんとにそう思ってくれますか。嬉しいです。年齢も年齢だし、人間関係広げる難しさを最近感じていまして」

「俺、三十八だよ」

「けんごさん、年上だったんですね……! なんかマジ失礼なことばかりしている気がします」

「大丈夫だよ、これから友達になればいいんだから……今は。それにカードゲーム仲間にバーの常連さんいるっていったでしょ。年齢とか今さら関係ないよ。家近くなんだけど、歩いて帰る? それともタクシー呼んで楽しちゃう?」

「え、えっ、そんなこと聞かれたの初めてです。けんごさんはどうしたいんですか」

「年齢が年齢だからさー、体力回復のためにはタクシーがいいかなー、でもこうやってゆうさんと一緒に喋りながら歩くのも楽しい。第一、ゆうさんが嬉しそうに元気で喋ってくれるの最高に嬉しい!」

「嬉しいが重なってますよ」

「ん?」

「あ、すみません。今の職業病みたいなもので」

「そうなんだ。職業病が出るなんてゆうさん、ほんとはシゴデキなんだね」

「僕が、ですか? いえ、まだまだ超下っ端扱いです」

「えーと、ゆうさんって三十歳超えてる? もちろん答えたくなかったら言わなくていいからね」

「僕、三十五ですよ」

「なんだ、じゃあほとんど同年代じゃん」

 そんな話をしているうちに見覚えのある大きなマンションに着いた。


「明日来てくれそうな友達に連絡するね」

 と言ってすぐにけんごさんがメッセージを送り始めた。よっぽど嬉しかったんだな。それに店員からのアドバイス聞けて良かったな。

 入浴を促され、新しく購入したというパジャマを贈られた。お礼をするつもりが、まんまと術中にハマってしまった不思議な気分。

 僕の入浴中に、明日来てくれる友達が決まったらしく、嬉しそうにしていた。

「バー常連のゴンさん、体が大きくて力持ちだけど根は優しい。それから、学友のくじらさん」

「がくゆう?」

「あ! 同級生!」

 やんごとなき方々が同級生をご学友と呼ぶのはニュースで知っていたけれど、もしかしてけんごさんもそういう方なのか。いくら賃貸だからって一人で住むには大きい部屋に感じる。

「くじらはニックネームだから、そのまま呼んで。バーには来たことないけど、たまたま予定が空いたみたいなんだ」

「お忙しい方なんですか?」

「……どうだろう? 俺にはわかんないや」

 質問に対して、一瞬下を向いて寂しそうな顔をみせた。バーにいるときは気づかないが、自宅にいるときのけんごさんは時折寂しそうな顔をみせた。

「あの、僕がいるんで寂しそうな顔をしないでください」

 そういうと、軽いハグをされて、耳元で「ゆうさんは優しいね」と囁かれた。

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