充実(仮)

獲物の手応えを感じる。コートのポケットにそれを入れたまま、僕は路地裏へ入った。

「よっ。」

「やぁ。」

凌がもう来ていた。

「どうする?」

「とりあえず孝を待とうか。」

「OK」

孝は来なかった。

でも、またいずれ来る。僕にはそれが確信出来ていた。彼がここに居場所を見つけ出しているのは確かだ。

軽くだけ体を洗い、湯船に突っ込んだ。湯に顔の半分を沈める。鼻から息を吐く。息を吸い込み、顔をあげる。むせた。水を飲んでしまった。不快。しかし、それは近頃の日々に敵う物ではなかった。何を盗っても得られなかった充実感。それが、普通。これが、普通。少し歪んでいても構わない。灯油屋の音が聞こえる。目を閉じる。

「いつまで入ってんの!茹だるよ!」

目を開けた。

「はいはい。」

服を着る早さには自信がある。

「今日は冷凍の餃子と適当な刺身しか買ってないから。」

「やっとく。」

餃子を花のようにフライパンに並べる。今日は薔薇をイメージしてみた。もちろん自己満足である。タイマーがなるまでに、刺身はパックのまま蓋だけ開けて適当に机に並べる。餃子は30個。外側から10個だけ食べる。刺身は同じ物三パック。一パックだけ食べて、後は放置。ラップなどはかけない。かけたっていい事なんかないから。

子供の頃無理を言って買ってもらった二段ベッド。今見ると何か癪なのでいつも上の方に寝る。梯子は90度なので、驚くほど登りづらい。いつも3段はとばして上る。

ぴっ。ぴっぴっぴ。

温度を設定できる最低にまで下げた。枕の上下を反対にして(今度君たちもやってみるといい。)、布団に潜る。僕の場合、本当に頭まで潜るので、親や友達に心配される。いいじゃないか。暑いわけでも寒いわけでも、死ぬわけでもないんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ワケアリの僕等(仮) 遙夏 @TELphon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る