2.心友(仮)

がちゃっ。

ドアノブをひねる音がした。僕はドアを見つめる。彼は窓の外を眺める。

きい。

ドアがきしむ。

「わっ。」

「うわっ。」

「うぇっ。」

3連発。

何かを恐れるようにゆっくりと開いたドアは、こみ上げる安堵のようにまたゆっくりとしまった。

しばらく静かになる。

金属のドアをたたく音。僕はその音に何かを恐れるような色を聞いた。

半開きのドアから見える男の姿を僕は的確に捉えた。

「どうぞ。」

「あっ。」ドアの向こうから。

「いっ。」僕。

「うっ。」彼。

「どうぞ。」

もう一度言った。

ドアが全開になった。

彼は突然口を開いた。

「私、三人目?」

「そうだよ。」驚くほどさらっと彼は言った。彼は初対面の人に対する接し方が軽い。しかし、それは無意識の共感が生むものだと私は知っていた。

「こんにちわ」突然挨拶が飛んできた。それは頭の中で素早く身をかわした僕に直撃した。

「こんにちは。」挨拶を返す。

「ふぃっ。」

かわされた。

年に見合わない丸く茶色い目は、僕になにかを見透かされているような感覚を与えた。

「自己紹介してくれない?」そう彼は聞いた。

「いいよ」

そういえば僕も来てから1回もそういうようなことをしていない事を思い出した。

2人分の視線が僕を貫いた。

ぐはっ。

「じゃあ、キュウって読んでほしいです。弓一って言うんで」

「そうなんだね。」

「へぇー」

視線を彼に刺しかえす。

「おっけー。」

効いてない。

「リョウ。凌ぐって書いて、凌だよ。」

「うんうん」

良い名前だな。

今度は凌と共謀して視線の矢を飛ばす。

目を閉じた彼には当たってない。かわされた。

「じゃあ、コウって呼んでよ。孝二だから。」

「了解っ。」とわざとらしく敬礼をする凌。

「わかった。」僕も言った。

「じゃ、よろしく。」孝も言った。

やけに満足そうな凌を見て僕は考えた。そして聞いた。

「3人でいいの?」

「うん。十分。」

「へぇ」

「私で満足してもらえるたぁ光栄だね、」

ニヤつく孝。

嬉しかった。楽しかった。これが仲間か。これが心友ってやつか。今まで理解できなかったことが一瞬にして理解できた。こみ上げる感情を抑えることが出来ず、口の形が歪むのを止めることが出来なかった。

「ふひっ。」ぺらぺらの弱い音が、僕の口から漏れていた。

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