第297話

「……お兄ちゃん居ると思うけど会ってく?」


「…――ヨロシク言っといて」


「わかった」






微かに触れ合った指先が、俺達の代わりに寂しいと嘆いてた。


その指先に目を奪われたまま、互いにピクリとも動かず固まっていた。




その手を引き寄せたかった。

だけどお互い本能的にそうしなかったんだと思う。





物分かりの良い奴になりたかった訳じゃない。

ただ、渚を泣かせる男にはなりたくなかったんだ。






抱き合えば離したくなる。

意地でも引き止めたくなる。




そして堪えきれなくなった渚はきっと泣くから。

そんなの見てられない。









「――っ…ライヴは観に行くからっ」






先に断ち切ったのは渚。

離れた指を包むように手を握りしめていた。





「……あぁ、待ってるよ」


「譲ってば向こうでも有名なんだって。お兄ちゃんが言ってた」


「海外の音楽番組とか、映像コンテンツも出てっから」


「そう思えば私っていつでも譲を見られるのね」




見ないくせに。

あからさまに嘘をつく姿が愛おしくて、手を伸ばして触れたい衝動に駆られる。




だけど――、笑ってサヨナラなんて肌が触れ合えば脆く崩れる綺麗ごと。


それが分かってるから安易に抱き合えなかった。

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