第292話

メインエントランスを抜けるまで、最大限に歩くスピードを落として歩いた。


渚が何度も後ろを振り返って名残惜しそうな表情を見せるから、無意識に歩調を合わせていた。


そんな姿が愛おしいと感じる反面、また来ようと言ってやれないもどかしさは正直かなりキツかった。




「車で来たの?」


「イェッス」


「やった。お土産抱えて帰らず済むね」




その特大袋を持ってるのも俺なんだけどね。

矛盾してるにも程がある。




「誰もお前乗っけて帰るとは言ってねえ」


「いいじゃんっ、ケチ」




いつもどおり。


寂しさや不安は見せずにこの瞬間を大切に過ごす。

それが俺らに出来る唯一のことだった。





お互い同じ想いだったんだろう。


渚は子供のようにクルクルよく笑い。

楽しそうにハシャぐ声が夜空に弾んだ。






「出発までどうすんの?」


「んー…、取りあえず準備に追われてる。渡瀬さんと香澄には会うつもりだけど」


「そっか」


「そうだ、泰ちゃんっ。泰ちゃんには―――…」





渚はもう夜の街には出ない。


出たらややこしい事になり兼ねないだろうし。

渚も俺もそれはよく解ってる。




「俺から言っとくよ」




渚が言葉を続ける前に言うと、ニッコリ静かな笑顔が返ってきた。




「泰ちゃんにはお世話になったの。すごく」


「知ってるよ。ちゃんと言っとくから」




言葉がなくても通じ合えるようになったのは大きな変化。


この関係が順調に育った証拠だと思う。

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