第291話
密から逃げるように空いているスペースに足を進めると、目先にあったショーケースの中をおもむろに覗いた。
中には高いとも安いとも言えない微妙な値段のアクセサリーが並んでいて、ターゲット層の想像すらつかない。
どんな奴が買うのかと思いながら肘をついてガラスの向こうを眺ていると、そのど真ん中にあった指輪に目が留まった。
一際キラキラ存在感が強いそれを指して渚に言ってみた。
「婚約でもしとく?」
渚は声こそ抑えていたけれど鼻にまでシワが寄るほど笑っていて、冗談はやめてとあしらわれた。
俺的には本気でもないけど、冗談でもないんだよな。
嘘でも喜んだフリするような女じゃないのは知ってるけど、ウケすぎててこっちは胸中複雑。
「将来の約束なんかしちゃったら、また誰かとこういうとこに来て、キラキラしたのおねだりされたら困るわよ」
冗談だと解ってるのに。今はもう冗談なんかで返せなくて。
微笑む渚の頬をムギュッと掴んだ。
「ねだる女なんかに買うかよ」
他人事みたいに笑うなよ。
他の女は相手にすんなって、自分のことだけ想ってろって言えばいいのに。
渚はそんな俺の胸の内さえ見抜くように、目尻を下げて微笑む。
「もしお前が男作ったら。俺そいつ殺すよ」
「今から牽制するとかやめてよ」
「もし俺が女作ったら?」
「いいんじゃない?サヨナラの花を贈ってあげる。仏花」
「いちいち発想がやべえって」
お互い、違う相手とデートするかもしれない。
でも俺の中での渚を越える女は居ないと思う。
出逢ったその日から今まで。
渚が関わった思い出全てが強烈すぎた。
笑える思い出ばかりじゃねぇけど、全てが次逢った時まで守りたい思い出だ。
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