第279話
今すぐ来いと渚が指定したのはテーマパークだった。
この状況で突然どんな冗談だよと一瞬思ったけれど、声の向こうから届く騒がしい雑音。
既にそこに居ることを悟って疑問を抱くのをやめた。
「一人?」
『うん』
「…―――今すぐ行くから。待ってろ」
事務所に停めていた車をスタッフに乗って来てもらい、リハが終わるのを待たずにスタジオを飛び出した。
一秒でも惜しかった。無我夢中で強くアクセルを踏んでいた。
何度も足を運んだことがあるけど、ここ数年は人混みを敬遠して近づこうとも思わなかった場所。
さっきまで神経を張り詰めてたせいか、人の多さと賑やかさに優しさを感じたりするから不思議だ。
キャップを深くかぶり、孤独にチケットブースに立つ姿は我ながら虚しい。
無駄に慌てたせいで保安検査とやらでポケットの中の物をぶちまけて、不幸に追い討ちをかけられたような気持ちでゲートをくぐると、目の前に広がる平日とは思えない園内の光景に一瞬足を止めた。
暇な人間が多いんだなと嫌みさえ言いたくなる人間の頭の数に圧倒されつつ、大人の男1人でこんな場所に立ってる違和感を誰も察しない雰囲気はなかなか悪くないんじゃないかと思えてくる。
仁王立ちして腕を組み、アーケードの向こうに続く人混みを眺めているとメッセージが。
"左。斜め前のベンチのほう見て"
言われたとおり目をやると、キャラクターの耳のカチューシャをつけた渚を発見。
嬉しそうに手を振る姿は健康そのもので、安堵してため息が漏れていた。
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