第278話

夕暮れにはまだ少し早い時間、リハーサル真っ最中に着信音が鳴った。

配慮のない音量は周りの視線を一斉に集めたけれど、気にも留めない。




ジーンズのポケットに入れたまま片時も手放すことのなかったそれを、命綱か何かと錯覚していたのかもしれない。

瞬時に飛びつく姿はよほど異様だったのか、周りが目を丸くさせていた。




あの女、俺には連絡するつもりないんじゃないかとか。

だとしたら実はもう既にシャバの空気を吸ってるのに、俺だけが何も知らずに待ってるんじゃねえかとか。

色々考えだしたら想像が膨らみすぎて爆発しそうになって。



それでも自分に選択肢は無かったから。




ただひたすらに待っていた。

逃すわけにはいかなかったんだ。

待ち望んでいた恋しい声を。





「お前おせーよ、マジで……」





待つだけの時間は拷問。解放された瞬間に苦痛なんて忘れていたけれど。



普段どおり俺の名前を呼ぶその声に安堵して言葉に詰まる。

遅れて震えはじめた手で髪をかき乱し、膝を曲げてその場に力なく屈んでいた。

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