第280話
どんな言葉を掛ければいいんだろう、とか。
何も無かったフリする方がいいのか、とか。
ここに来るまでの間に色々考えすぎて、上がったり落ちたり一人でヤキモキしてたから。
でもこの様子じゃ要らぬ心配だった。
お互いの姿を確認出来たら電源はオフ。
時間を止めて、誰にも邪魔されないように暗黙の了解のようだった。
一歩ずつ歩み寄ると、渚の右手にある物が視界に割り込んでくる。
ヤな予感しかしねえ……。
「早くっ!!駆け足!!」
上から目線の命令口調と高速手招きの圧に負けて、仕方なく小走りで近づく。
渚はそんな俺を見て満足そうに口元を引き上げて俺を見た。
いざ面と向かうと、久しぶりじゃないのに、久しぶり感しかなくて戸惑う。
「つか、お前いつ戻ったの?」
「昨日」
「ふーん……。で?」
「で? って何?」
「自由の身?これからどうなんの?」
「そ。自由の身よ。そんな事より早く行こうっ」
「そんな事って…お前なぁ……」
吐きそうなほど心配して走り回った俺の身になってみろっての。
気にも留めず踵を返した渚の手首を掴んで引き留めてみたものの、言葉が出ない。
呆れてガツンと言ってやりたかったけれど、情けなく眉が下がった今の俺が言ったところで渚の心には掠りもしないだろうと思ってやめた。
渚はそんな俺の様子を気にも留めずに微笑む。
人の気も知らねぇで暢気なもんだぜ……。
「取り合えず話は後にしようよ。オアズケは辛すぎる」
俺の功績なんて所詮その程度の扱いだ。
死ぬほど悩んだのによ。
察することなくお構いなしで既に本調子の渚。
相変わらず言葉は少なくて、まどろっこしい事を嫌う。
直感のまま行動して、相手を自分のペースに引き込む。
落ちた様子もなく、いつもと変わらない強気な態度。
でも今日はそれが妙な安心感を与えてくれた。
今更言ってもどうにもなんないけどさ。
俺も厄介な女に惚れたもんだ……。
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