第273話
「勿論ずっとじゃないし、どうしても嫌なら一時的と考えてもいい。
けど将来と身の安全を考えれば卒業まで向こうにいて、噂も消える頃に日本に戻るのが理想的だと思う」
まるで自分じゃない誰かの話を聞いてるみたいだった。
どう思うかと訊かれ、やっと自分のことなんだと脳が認識したみたい。
何をどう考えればいいのか。
居ても立ってもいられず両親に目を向けると、察しのいい兄が言葉を補う。
「妙な考え持つ必要ないからな。これは俺が提案して話し合って決めた家族の意見な。
渚のことを最優先で考えた上でベストな提案をしたつもりだよ。
親父達が手に負えないって渚のことを放棄した訳じゃないし、寧ろ一人娘を目の届かない外国にやることに躊躇ってる」
二人は兄の言葉に深く頷き。
言葉を詰まらせた私の目を真っ直ぐに見てくれていた。
「飛行機に乗れば4~5時間の距離だ。日本が恋しい時は戻ればいい。
逢いたくてたまらない人がいるなら逢いに行けばいい。
その為の協力はするし、面倒も見てやる。だから余計な心配せず自分の事だけを考えろ」
海を超える。
それが最善なのかと問われても、実際誰も答えは持ち合わせていないだろう。
けれど、家族が私の事を考えてくれたうえでの最善の策だというのは解る。
そのうえ強制ではなく、私に選択権を与えてくれている。
だからだと思う。
迷う理由もなかったし、考える時間も必要なかった。
「私行くよ、香港。お兄ちゃんと暮らす。向こうの大学に通って、ちゃんと卒業する。だから…よろしくお願いします」
家族に頭を下げる日が来るなんて思いもしなかった。
この歳にして初めてだったのかもしれない。
誰かの力で生活させてもらう重みを知り、その有り難みを身体中で感じるのは。
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