第272話

「これからのことなんだけどな……」




それだけ言って言葉を詰まらせた父の代わりに、兄は自分が話すと引き継いだ。




「俺と一緒に香港で暮らさないか?」





……香港。



まさかの提案に唖然とした。


見開いた目に、ポカンと開いた口。

相当な間抜け面だったに違いない。




「え、だって……学校とか―――っ…」




この期に及んで本気で大学の心配をしてたわけじゃない。

パニくって最初に出た言葉がそれだったってだけの話で、自分でもよく分からない。





なのにその答えはきちんと用意されていて。

私を待っている間、確実に三人で話が進んでいたと気づかされる。




「大学は卒業したほうがいいな、でも日本の大学に拘る必要はない。学ぶ気があるのなら、向こうの大学に編入すればいい。

俺も通ってたけど、立地も良いし、多国籍だし、学部も充実してて良い学校だよ。

幸い渚は成績も良いみたいだし、今通ってる大学の評価も悪くない。編入試験はパス出来るはずだから安心していい」





そりゃお兄ちゃんと暮らせるのは嬉しい。


離れてからずっと願ってた夢だったけど……


ここを離れるなんて。

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