第270話

車中、兄と両親の会話を目の当たりにして妙な感覚だった。




家族が会話する当たり前の光景は、幼き日の記憶の中だけに存在した。


希望という言葉で風化しつつある映像を繋ぎ止めていたにすぎない。

違和感を覚えるのも無理なかったのかもしれない。



三人で私を待っている間に話し合ったと言っていたけど、長い間バラバラの家族だったから、そう言われてもピンとこなくて奇妙でしかなかった。



不思議で、落ち着かなくて。

横に座る兄の顔をジッと見ていると視線に気づいた兄は私の心を読んだらしい。


気まずそうな表情。




「距離を置いて見えたこともあるし、歳をとって気づくこともあるんだよ」



表情に反して声が穏やかだったからかな。

兄が家を出る時に引き止めようと縋らなかったことは正解だったんだと思えた。



難問の答え合わせをやっとできたような気がして胸がスッとする。

同時に、きっと私は近すぎて見えないものが多かったんだと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る