第268話

譲からの連絡で私のことを知った兄は、頭を整理する間もなくキャンセルが出た飛行機に乗って入国したらしい。



苦手な飛行機の揺れも気にならないほど生きた心地がしなかったと言っていた。





「アイツが空港まで迎えに来たよ」





アイツが誰かなんて訊くまでもなかった。



想像を超えた献身的な行いは私の心を揺さぶる。


つい涙ぐんでしまったことはアイツには絶対に秘密だ。




何かを望むことなんてなかった。


譲に傷がついてしまうんじゃないかとか、壊してしまうんじゃないかとか、考えるほど怖くて。

それなら夢から覚めたように全てを消してしまう方が彼の為になると思っていた。




けれど実際は、固く結ばれた結び目はそう簡単にほどけないのかもしれない。





「俺を逃したら後悔するぞって伝えてくれだと」




どんな伝言だよ。


心の中で呆れつつ、兄が醸し出す嬉しそうな雰囲気に呑まれる。





「面白い男だよな。芹沢譲」


「世界一のバカだからだよ」





譲と一緒なら今までとは違った生き方ができるんじゃないか。

そんな気にさせさせてくれた。

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