第266話

「今回は彼女自身が薬に手を出していなかったことに大きな意味がありました。

流されるような人間だったなら、忖度出来ない状況だった可能性も大いにありましたから。

自分の意思で踏みとどまっていたことが救いで、それは愛されて育った人間だからだと私は思っています」




刑事さんが両親に語る言葉が重く圧し掛かる。


掌に汗がじんわり滲み、全身の血が下がるような感覚は罪悪感の表れなのかな。


喉をゴクリ鳴らしたけれど、乾ききった口内の不快感が増すばかり。

真っすぐ見ることさえ親不孝のような気がして両親から目を逸らした。





「これからに目を向けましょう。大切にされている人間は、自分のことも、周りの人間も大切にします。

お嬢さんは今まで以上に思慮深く生きていくに違いない。私はそう信じてますよ」




本当に自分にそんな価値があるのか。

自分には不釣り合いな過大評価のような言葉のせいで落ち着かず頭を上げることもできない。

穴が開きそうなほど床をひたすら見ていた。





「耳が痛いよ」



父のその言葉は自分に向けられていると気づき、遠慮がちに視線を少し上げた。

私を見る眼差しは、さっきより柔らかい。




「私達は渚を愛しているし、大切に思ってる。でもそれを十分に伝えてこなかったことを後悔している」


「………」


「こんなことになるまで気づかなかったなんて。今までどれほど自立した渚に甘えきたのかと考えさせられた。私達の責任は大きい」





反省を促す立場にあるけれど、そんな単純な問題ではないと。時折母と視線を合わせながら言葉を続けた。

二人が視線を合わせて探るように言葉を紡ぐ様子を見ていると、胸がカーッと熱くなった。





「違うっ――…、誰も関係ないっ……」




家族のことは切欠にすぎない。


孤独が罪を犯した理由にはならない。





「私が悪いの。見極めることが出来なかったから。もっともっと遠い未来を見ることが出来なかったから―――…」





物事の善悪や、人としてのルール。

自分の存在価値でさえ見極めることが出来なかった。


そして、大切だと思える人に出逢った時にするであろう後悔に気づいていたなら。





あの頃の私は人間らしく生きようともしなかった――――…。

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