第246話

「なんだよ。意味ありげに笑うな気色悪い」


「ジャイアンの著しい成長が見れて嬉しいなと思ってさ」




一世が言うと秋緒もクスクスと声を漏らすから、丸めた背中をシートに沈めて咳ばらいをしてやり過ごした。




窓の外に目を向けると、遊び疲れた顔の奴、飲みすぎて死人みたいになってる奴。

色んな顔をした人間が長い夜を終えて街を出ようとしていた。




充実した顔してる奴なんて誰一人いねえ。






それでもこいつらはまた街に来る。

朝日を見て一日を終わりを感じようとする。

この街には何かがあると信じて。


俺もそんな人間の一人だったんだ。






快楽にしか目を向けていなかった俺。

渚が嫌いだと言っていた街の裏側にやっと目を向けたのかもしれない。


気づくのが遅かったんだよな……。






後悔することに何の価値もないんだと頭の中では分かっていても、実際問題今の俺が実行するには難易度が高い。



どうして俺は何も気づけなかったのか。

こんなに近くにいたのにどうして。


一世にはいかにもな想いを語ってみたけれど、気を抜けば自分の不甲斐なさばかりが頭の中をめぐっていた。




それを察した一世をさすがと言うべきなのか。

少なくとも渚がコイツを信じた理由がよく分かった。




「俺はお前の知らない渚の一面を知ってたけどさ、ありのままの渚じゃなかった。

渚が自分らしく、普通の女でいられたのは譲の前だけだったんだと思うよ

譲には自分の黒い部分を知られたくないって思ってた。気づかれないように振舞ってたんだ、気づけないのが当たり前だろ。

お前が自分のことを責めたら渚も自分を責めなきゃいけなくなるじゃん?だからさ、あれだ。負の連鎖は早めに断ち切るのが賢明だ」

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