第63話

「あぁ、すみません」



渇いた謝罪。



手を差し出すことも、杖を拾うこともない。

まるで何も無かったように私が立つ方へ向かって歩いてきた。



助けるどころか、まともに謝ることさえ出来ないオヤジ。


周りにはこんなに人間が溢れているのに、誰一人としてお爺さんに手を差し出すことはなくて。


道路に投げ出された杖なんて忘れられた存在。



歪んでる。



頭の中で何かが弾けた。




「待って」



サラリーマンとのすれ違いざま。

私の手はぶつかった張本人の二の腕を捕らえていた。



「今のは謝罪なの?」


「え、?」


「怪我してたらどうするの?お爺さん目が不自由なのにどうやって杖を探すの?」



どうしてだろう。

こんな人間じゃなかった。


他人の事なんてどうでもよくて。

いちいち人の行動に腹を立てたり、幻滅したりするような人間じゃなかったのに。




どうしようもなく苛立って。納得がいかなくて。

こうせずにはいられなかった。

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